季節性うつ病(SAD)とは
季節性うつ病(Seasonal Affective Disorder:SAD)は、主に秋から冬にかけて気分の落ち込みや意欲の低下、過眠、食欲の変化などが現れ、春になると自然に症状が軽快する傾向を持つうつ病の一種です。
1984年に精神科医ノーマン・ローゼンタールらによって初めて報告され、日照時間の減少による脳内ホルモン(セロトニンやメラトニン)の変化が主な原因のひとつとされています。
秋冬型のSADがよく知られていますが、実際には春や夏、梅雨の時期にも類似の症状を訴える方がいます。春は仕事や学校など生活環境の変化による心理的ストレス、梅雨は湿度や気圧の変動、日照不足、夏は強い日差しや高温、冷房による体温調節の乱れや睡眠不足などが要因となり、心身のバランスが崩れることがあります。
ただし、すべてのうつ病が季節性とは限らず、非季節性のうつ病との区別には専門的診断が不可欠です。
季節の変わり目に気分の落ち込みや体調不良を感じた場合は、我慢せずに精神科・心療内科へご相談ください。
季節性うつ病の主な特徴
- 有病率:欧米では1〜10%、日本では約2.1%の方にSADが疑われます。
- 発症年齢:特に20代前半に多く、女性に多く見られます。
- 季節性パターン:冬季に繰り返し症状が出現しやすく、高緯度地域や日照時間が短い地域での発症率が高い傾向があります。
季節性うつ病(SAD)の症状
上述の通り、季節性うつ病(Seasonal Affective Disorder:SAD)は、典型的なうつ病とは異なる非定型うつ病の特徴を持つことが多く、特に冬季うつ病では「過眠・過食・体重増加」が三大症状とされています。
精神的な症状としては、意欲低下、思考力や判断力の低下、全身の倦怠感が中心で、憂うつ感などの抑うつ症状は比較的目立ちにくいのが特徴です。これらの症状は、冬の間まるで「冬眠している」かのような生活パターンを呈することもあります。
主な症状と特徴
① 過眠
夜間の睡眠時間が長くなるだけでなく、日中にも強い眠気が生じ、昼寝が増えるなど睡眠時間全体が延びます。
② 過食(特に炭水化物欲求)
炭水化物や甘い物への欲求が強くなる傾向があり、「炭水化物飢餓」と呼ばれるほど特徴的です。白米やパン、パスタのほか、チョコレートなどの菓子類を好むようになり、午後から夜にかけて欲求が増すことが多いです。
③ 体重増加
食欲の増加と運動不足が重なり、体重が増える傾向があります。
なお、SADのような気分や睡眠・食欲などの生理機能の季節変動は、一般の方にも程度の差はあれ存在します。
冬になると気分が沈む傾向は、文化や民族を越えて確認されており、その背景には日照時間や気温の変化に対する生物学的適応が関与していると考えられています。
これらの症状が毎年同じ時期に繰り返され、日常生活に支障をきたす場合は、自己判断せず専門医にご相談ください。
季節性うつ(SAD)の
症状チェックリスト
秋になると次のような症状が毎年現れる場合、季節性うつ病が疑われます。
- 甘いものや炭水化物を無性に食べたくなる
- 十分寝ても昼間に強い眠気を感じる
- 仕事や家事に対するやる気が出ない
- 以前好きだった趣味や活動への興味がなくなる
- 体重が増加した
- 日常のちょっとした動作も億劫に感じる
- 何となく気分が落ち込み、孤独を感じる
院長より:このような方が多く来院されています
秋ごろから急に生活リズムが乱れたり、気分が沈みがちになって「自分でもどうしていいかわからない」という方がよく来院されます。
特に20代〜40代の女性の方に多く見られ、仕事や家庭、育児の疲れが気づかぬうちに影響しているケースもあります。
「これくらい大丈夫」と我慢せず、一つでも思い当たる点があれば、早めに当院までご相談ください。
季節性うつ病(SAD)の原因
季節性うつ病の主な原因は、日照時間の減少と、それによるセロトニンの不足です。日照時間が短くなることで、光の刺激が減少し、これが神経伝達物質であるセロトニンの分泌に影響を与えます。また、体内時計を調節する松果体から分泌されるメラトニンが増加することにより、体内リズムが乱れることも一因として考えられています。
季節性うつ病(SAD)の
診断方法
診断基準
アメリカ精神医学会のDSM-5診断基準では、季節性うつは双極性障害や大うつ病性障害の一種として分類されています。
DSM-5の規定では、過去2年間連続して、冬期における抑うつエピソードがあることと、季節性エピソードの数が非季節性エピソード数を上回っていることが最低限の基準とされています。
季節性があることで、病気の悪化時期を予測しやすくなり、予防や早期対処が可能になります。晩夏から秋にかけて、睡眠や食欲の変化などの兆候を早期に気付くことで、速やかな治療が可能となります。そのため、この疾患に対する正確な理解と、治療の重要性を認識することが大切です。
具体的には、気分や睡眠、食欲に関する記録シートを作成し、毎年8月以降は週ごとに記録をとることをお勧めします。これにより、病状の早期発見が可能になるでしょう。
季節性うつ病(SAD)の治療法
季節性うつ病の治療法には以下のような方法があります。
高照度光療法
高照度光療法(ライトセラピー)は、1980年代に季節性うつ病の治療として始まった療法です。朝の時間帯に、2,500ルクス以上の明るい光を一定時間浴びることで、体内のリズム(体内時計)を整える働きがあります。アメリカ精神医学会(APA)やCochraneの研究レビューによると、高照度光療法は抗うつ薬と同じくらいの効果があり、薬と併用することでさらに効果が高まると報告されています。
この治療は、特に「朝起きづらい」「寝ても疲れが取れない」といった症状がある方に向いているとされ、睡眠と気分のリズムを整える効果が期待できます。
出典:日本うつ病学会治療ガイドライン(2016年)
抗うつ剤の投与
高輝度光線療法により、季節性うつ病の症状が改善することがありますが、再発するリスクも伴います。そのため、抗うつ剤の処方が必要な場合があります。
一般的に、疲労感や眠気の副作用が少ないSSRIが選択されます。季節性うつ病の場合、秋に抗うつ薬を始め、春に服薬を止めることが多いです。
院長より:治療はその方に合った方法を一緒に探します
治療といっても、「薬は飲みたくない」「できるだけ自然な方法がいい」というご希望をお持ちの方も多くいらっしゃいます。当院では、光療法、生活リズムの調整、食事や睡眠の工夫など、無理なく取り組める方法をご提案しています。もちろん、必要があればお薬の使用も検討しますが、「まずは話を聞いてほしい」という段階でも構いません。お気軽にご相談ください。
季節性うつ病(SAD)を防ぐために日常でできること5選
季節が移り変わるタイミングで、気分が落ち込んだり、体調を崩したりするのは珍しいことではありません。日照時間や気温の変化が、私たちの心や体に影響を与えるからです。そんな時期を少しでも快適に乗り越えるために、日常生活でできる簡単な対策をご紹介します。
日光を積極的に取り入れる
季節性うつは、特に日照時間の減少が関係しています。できるだけ朝日を浴びる時間を作りましょう。
- 朝の散歩や窓辺での軽いストレッチがおすすめです。
- 天気が悪い日が続く場合は、明るい照明や光療法のライトを使うのも効果的です。
規則正しい生活を心がける
生活リズムの乱れは気分にも大きな影響を与えます。以下を意識すると良いでしょう。
- 毎日同じ時間に起きる・寝ることで体内時計を整える。
- バランスの良い食事を心がける。特にタンパク質やビタミンDを意識的に摂取することが大切です。
適度な運動を取り入れる
運動は気分を高める効果があります。激しい運動でなくても、ウォーキングやヨガなど、無理なく続けられるものを取り入れてみましょう。
ストレスをため込まない工夫
ストレスは気分の落ち込みを悪化させる原因となります。
- リラックスできる時間を意識的に作る(入浴、読書、趣味など)。
- 周囲の人に気持ちを話すことで、負担を軽くする。
環境を整える
季節に合わせた住環境の工夫も有効です。
- 冬場は部屋を暖かく保ち、乾燥対策をする。
- 夏場は涼しい空間で快適に過ごすよう工夫する。
- 明るい色のインテリアや植物を取り入れ、気分を和らげるのも効果的です。