大人のADHDとは?
ADHD(注意欠如・多動症)は、子どもだけでなく大人にも影響を与える発達障害の一種です。多くの人が「ADHD=子どもに多い症状」と考えがちですが、大人になってからADHDに気づく人も多く、仕事や人間関係など日常生活に支障をきたすことがあります。
大人のADHDの特徴
大人のADHDは、子ども時代に症状があったものの、診断されずにそのまま過ごしてきた人が多いと言われています。大人になって初めてその症状に気づくこともあります。ADHDの特徴は個々に異なりますが、以下のような症状が一般的に見られます。
主な症状
集中力の欠如
仕事や日常生活の中で集中することが難しく、重要なことを忘れてしまうことがあります。
計画性の欠如
目標設定や計画を立てることが苦手で、期限を守れないことがあります。
衝動性
思いつきで行動してしまい、後先を考えずに決断してしまうことがあります。
社会的な困難
感情のコントロールが難しく、誤解や衝突が起こりやすくなります。
大人のADHDは何人に一人の割合?
ADHD(注意欠陥・多動性障害)は、子どもだけでなく成人にも見られる神経発達症の一つです。近年は「大人のADHD」として認識されることも増え、社会的な理解も進んできています。
厚生労働省が公表した疫学調査(浜松市で18歳〜49歳の男女を対象に実施)では、成人期ADHDの有病率は約2.1%(95%信頼区間:1.64〜2.54%)と推定されています。これはおよそ50人に1人の割合に相当し、決して稀な疾患ではありません。
ADHDの症状は、子どもの頃から続いていることもありますが、大人になってから社会生活の中で困難が表れ、初めて診断に至るケースも少なくありません。特に、仕事や人間関係でのミスやトラブル、マルチタスクが難しいなどの課題を通して気づかれることが多い傾向があります。
大人のADHDが生活に与える影響とは?
大人のADHDは、仕事・人間関係・日常生活などにさまざまな影響を及ぼします。注意力の欠如や衝動性、スケジュール管理の難しさなどが原因で、以下のような具体的な困難が生じることがあります。
仕事のパフォーマンスの低下
ADHDの症状が仕事の効率に影響を与え、特に集中力の欠如や計画性の不足が原因で、成果が上がらないことがあります。重要な会議やプロジェクトの締切に間に合わないこともあります。
人間関係の問題
衝動的な行動や、感情のコントロールが難しいため、家庭内や職場で誤解が生じやすく、対人関係に困難をきたすことがあります。家族や友人との関係が悪化し、孤立感を感じることもあります。
精神的な健康への影響
ADHDによるストレスやフラストレーションがうつ病や不安障害を引き起こすこともあります。自己評価が低くなり、自己肯定感が傷つけられることも多いです。ADHDの影響は広範囲にわたるため、早期に適切な治療を受けることが重要です。
大人のADHDの診断について
ADHDの診断には、絶対的な数値基準はなく、専用の医学的検査も確立されていません。ADHDの特徴は、他の発達障害や精神疾患でも見られることがあります。そのため、問診や検査を通じて総合的に診断を行います。
診断の流れと準備
ADHDの診断は、以下のステップで行われます。
問診
現在の症状や悩み、生活の様子について医師が聞き取ります。発達障害では自覚がないケースもあるため、家族や周囲の意見も重要な判断材料となります。
心理検査
子供向けには「ADHD-RS」や「Conners 3 日本語版」、成人向けには「CAARS」などの心理検査を使用し、症状の傾向を客観的に把握します。必要に応じて、知能検査(WAIS-Ⅳなど)や発達検査も併用されます。
診断基準の確認
「DSM-5」に基づき、症状が継続しているか、生活に支障が出ているかなどの条件を確認します。
問診時に準備しておきたい情報
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学校時代の行動やエピソード
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職場での困りごと(遅刻、作業ミスなど)
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過去の疾患歴(うつ病、てんかんなど)
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成長過程に関する情報(成績、母子手帳など)
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ADHDセルフチェック(ASRS-v1.1など)の結果
ADHDの診断基準(DSM-5より)
診断にあたっては、以下の2つの傾向のうち、いずれかまたは両方が見られるかどうかを確認します。
不注意傾向
集中が続かない、忘れ物が多い、ケアレスミスを頻繁にする
多動性・衝動性傾向
落ち着きがない、話しすぎる、順番を待てない
診断には以下の条件が必要です。
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症状が6ヵ月以上続いている
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複数の状況(家庭、職場など)で症状が見られる
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12歳以前にいくつかの症状があった
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社会・学業・職業のいずれかに明確な支障がある
※なお、12歳以前に診断されている必要はありませんが、後から振り返ってみて該当する症状があったと判断される必要があります。
大人のADHDの治療方法
ADHD(注意欠如多動症)の治療は、特性による困りごとの軽減と、生活の質の向上を目指したものです。ADHDは先天的な発達障害であり、病気ではなく脳の特性とされるため、完全に「治る」ことはありません。しかし、適切な治療や対処を行うことで、症状や困りごとを軽減し、より良い生活を送ることが可能になります。治療は医師や臨床心理士と連携し、患者一人一人に最適な方法を選択します。
環境調整
ADHDの治療の第一歩は、日常生活や仕事の環境を調整することです。規則正しい生活リズムを整え、家族や同僚に症状を説明し、理解を得ることが重要です。周囲のサポートを得ることで、苦手な作業を代わりに手伝ってもらったり、自分の得意分野に集中して進めたりすることができます。このような協力が効率的な仕事の進行に役立ちます。また、生活環境を整えることで、物を無くしにくくし、注意が散りにくくなるなどの効果があります。例えば、デスクや部屋を整理整頓すること、重要な事項をメモとして目につくところに貼っておくといった工夫が有効です。
心理療法
心理療法は、ADHDの症状に対する理解を深め、日常生活の困りごとを軽減するために行われます。主に以下の方法が使用されます。
心理教育
心理教育では、ADHDの症状や特性に関する知識を得ることができます。患者は、困りごとが自分の努力不足によるものではなく、ADHDによるものだと理解しやすくなります。これにより、自己肯定感を高め、適切に対処する方法を学ぶことができます。
認知行動療法(CBT)
認知行動療法(CBT)は、患者の思考や行動のパターンを見直し、問題解決に向けたスキルを習得する治療法です。ADHDに伴う衝動的な行動や集中力の欠如を管理するために、計画的にタスクを進める方法や、感情のコントロールを学びます。この療法は、ストレスや仕事、学業の負担を軽減し、生活全体をスムーズに進める手助けになります。
薬物療法
薬物療法は、ADHDの症状を管理するための重要な治療手段です。成人ADHDには主に以下の3種類の薬が使用されます。
ストラテラ(アトモキセチン)
非刺激薬で、衝動性や不注意の改善に効果があります。作用は穏やかで、長期的な使用に向いています。
コンサータ(メチルフェニデート)
中枢神経刺激薬で、効果が早く現れ、集中力を高めます。短期間で効果が現れるため、学業や仕事で即効性が求められる場面で有効です。
インチュニブ(グアンファシン)
新しい治療薬で、衝動性を抑制し、集中力を向上させる作用があります。副作用が少ないとされ、成人にも処方可能です。これらの薬には、眠気や吐き気、食欲減退などの副作用が見られることがあります。そのため、薬の選択は慎重に行い、医師との相談の上で調整することが重要です。また、薬物療法は単独で行うのではなく、環境調整や認知行動療法(CBT)と併用することで、より効果的な治療が期待できます。
生活のサポート
薬物療法や療法の実施だけでなく、日常生活でのサポートも重要です。例えば、薬を忘れずに服用するためのリマインダーを設定したり、家族や友人に通院や服薬をサポートしてもらったりすることが推奨されます。また、ストレス管理や日々のタスク管理にも工夫が必要です。 ADHDは特性による困りごとは環境調整や薬物療法、心理療法を通じて十分に対処できます。もしADHDの症状が生活に支障をきたしていると感じた場合は、専門の医師に相談し、適切な治療とサポートを受けることをお勧めします。
大人のADHDに関するよくある質問
ADHDとASDの違いは何ですか?
ASDはADHDと同じ発達障害であり、生まれ持った脳の性質や働き方によって引き起こされます。 ADHDでは注意の持続が難しい一方、ASD(自閉スペクトラム症)では特定の興味に対して深く集中することが多いとされます。しかし、実際の症状は個人差が大きく、ADHDでも特定の興味に強い集中力を示す場合や、ASDでも注意散漫になる場合があります。また、両方の特性が重なる併存例も珍しくありません。 また、ADHDではコミュニケーションに問題が少ない場合が多いのに対し、ASDではコミュニケーションが苦手な人が多いとされます。 しかし、ADHDとASDはしばしば類似した特徴を示します。例えば、「ミスをよくする」という状況でも、ADHDの場合は注意力不足が原因であるのに対し、ASDの場合は特定のことに過剰にこだわってしまうことが原因になることもあります。 そのため、異なった対処法が必要となり、特性に応じた対応が求められます。また、発達障害を併発しているケースもあります。
ADHDの人の顔つきに特徴はありますか?
ADHD特有の顔つきに関する科学的証拠はありません。ADHDは、注意力の欠如や多動性、衝動性などによって診断されますが、顔つきに関する診断基準はありません。 しかし、研究の中には、顔の非対称性や特定の表情のパターンがADHDの人々に共通しているという報告がされているものもあります。 ただし、これらの研究結果はまだ初期段階で、明確な結論を出すにはさらに時間がかかります。 顔つきだけでADHDの診断はできないので、他の診断基準や行動評価と組み合わせることが必須です。
ADHDだと頭の中がごちゃごちゃしますか?
ADHDは前頭葉や線条体での機能障害が原因だと考えられています。 前頭葉での行動抑制機能が弱いため、物事に衝動的に反応してしまうのです。頭の中がごちゃごちゃするのも、衝動的な思考が蓄積されるからです。 また、ADHDの方々は、現状を正確に認識し、必要な処理を行う力(実行機能)も弱いと報告されています。頭の中の混乱を処理するプロセスが組み立てられず、思考を整理するのが苦手になりがちです。 努力で治るものではないので、周囲からの理解を得て、環境を見直す必要があります。
ずっと寝てる、寝ても眠いのはADHDが原因ですか?
ADHD(注意欠陥多動性障害)は、多動や衝動性、不注意を特徴としていますが、睡眠障害を併発しているケースも珍しくありません。 夜間の睡眠障害の要因が調整された後でも、ADHD 症状を有する人々は、そうでない人々に比べ、眠気を持つリスクが1.91倍高いと報告されています。 一方で、眠気自体が、不注意や集中力低下に繋がり、ADHD 様の症状を示すこともあります。 実際に、眠気を伴うADHD(注意欠陥多動性障害)群と、発達障害のない過眠症群との間では、入眠までの時間や睡眠効率は変わらないことが明らかになっており、夜間の睡眠の問題だけでないことが分かっています。
adhdの方は、他の疾患にもかかりやすいですか?
大人のADHDの約70%は、他の精神疾患を併発していると言われています。失敗が続くと、自信や意欲が低下し、うつ状態に陥りやすくなります。優先順位を決められず、複数の作業を同時に依頼されると、パニックを起こしやすい傾向があります。挫折や落ち込みから、うつ病、不安障害、パニック障害、対人恐怖症などが併発することがあります。また、衝動性から無駄遣い、借金、ギャンブル依存症といったトラブルに発展することもあります。
大人のADHDは完治しますか?
ADHDは先天的な脳機能の特性とされ、「完治」というよりは、「症状や困りごとを軽減し、より快適に生活できるようにする」ことが治療の目標です。治療は精神科や心療内科などを受診し、定期的に通院して行います。処方された治療薬を服用することで、脳内の神経伝達物質であるドーパミンやノルアドレナリンなどのバランスを調節し、ADHDの特性を抑制します。 さらに、治療には服薬だけでなく、行動療法、環境調整、心理療法なども併用するのが一般的です。グループ・プログラムなどの行動療法や、医師や臨床心理士からカウンセリングを受けることで、自分の行動や考え方を見直し、ストレスを軽減する心理療法、生活リズムの見直しや職場の環境改善を行う環境調整などがあります。
ADHDは勤め先の会社に報告すべきですか?
障害者雇用ではない場合、転職面接でADHDの特性を伝えるべきかどうかは、具体的な状況によります。ADHDの特性が仕事に影響を及ぼす可能性があるか、職場で理解や配慮が必要な場合は、その旨を伝えることが重要です。 転職面接では、前の職場での退職理由が問われることがよくあります。そのため、ADHDの特性と、職場環境との不一致を率直に伝えることがお勧めです。 ただし、ADHDの方に採用を渋る企業もあるため、慎重に判断する必要があります。伝える際は、具体的な支援や配慮が不可欠であることを明確にすると、理解を得やすくなるでしょう。