適応障害とは?誰でもなるの?
適応障害は「誰でもなる可能性」がありますが、同じストレスでも全員が発症するわけではありません。
適応障害とは、ストレスが原因で情緒面や行動面に症状が現れ、日常生活や社会活動に支障をきたす状態を指します。 例えば、転職・引っ越し・人間関係のトラブルなど、生活の変化によるストレスによって 「気分が落ち込む」「やる気が出ない」「イライラする」といった症状が現れることがあります。
ただし、同じ出来事に直面しても、すべての人が適応障害になるわけではありません。 性格傾向やストレス対処力、環境からのサポートの有無などによって、反応は大きく異なります。 ストレスは誰にでも起こる自然な反応であり、「つらい」「しんどい」と感じること自体は異常ではありません。
大切なのは、そのストレスにどう向き合い、適切に対処できるかという点です。 適応障害は、早期に気づいてサポートを受けることで回復できる疾患です。
適応障害の主な症状とは?
適応障害では、ストレスに対する反応として、情動面と行動面の両方に症状が現れるのが特徴です。
以下に主な症状を紹介します。
情動面の症状(気分や感情の変化)
- 抑うつ気分(気分が落ち込む)
- 不安・焦り・緊張
- 怒りっぽくなる
- 涙もろくなる、感情のコントロールが難しくなる
行動面の症状(行動の変化)
- 過度の飲酒や過食
- 無断欠席・無断欠勤
- 無謀な運転
- 口論・喧嘩などの攻撃的行動
- 仕事や家事、学業への集中力の低下
身体に出る症状(ストレス反応)
- 動悸(心拍数の増加)
- 発汗(大量の汗をかく)
- めまい
- 手の震え
適応障害とうつ病との違い
「適応障害とうつ病はどう違うの?」と疑問に思う方も多いのではないでしょうか。
どちらも気分の落ち込みや不安感を伴うため混同されやすいですが、実は発症のきっかけや症状の持続の仕方などに明確な違いがあります。
行動面の違い
適応障害では、抑うつ状態からくる不安や焦りによって、 急に大声を出したり、泣き出したりするなど、 感情の起伏が目立つことがあります。さらに、 アルコールへの依存や嘘をつくといった行動をとるケースも見られます。
一方、うつ病でも似た行動が見られることはありますが、 適応障害はストレス要因への反応として比較的短期間に表面化する点が特徴です。 また、適応障害では自分の行動に対して罪悪感を持ちにくい傾向がある一方、 うつ病では自責的(自分を責める)思考が強くなる傾向があります。
ストレスの対象から離れたときの違い
ストレスの原因となる環境から離れた際に、症状がどう変化するかも重要な違いです。
- 適応障害:ストレスの対象から離れると症状が軽減し、趣味を楽しめるようになる。
- うつ病:ストレスの要因がなくなっても抑うつ状態が続く傾向がある。
適応障害は「状況に対する反応」であり、うつ病は「脳の機能変化を伴う疾患」と言えます。 適切な診断を受けることが、回復への第一歩となります。
適応障害の原因とは?
適応障害の主な原因はストレスです。
ただし、同じ出来事でも人によって感じるストレスの度合いは異なります。 たとえば、環境の変化や対人関係、仕事や家庭のプレッシャーなど、 日常生活のあらゆる場面が影響を与えることがあります。
また、ストレスといっても「嫌なことがあったから」という単純なものだけではありません。 気候の変化や生活リズムの乱れ、さらには 結婚・出産・昇進などの喜ばしい出来事も、 心のバランスを崩すきっかけになることがあります。
適応障害を引き起こしやすいストレス要因
健康や生活環境の変化
自身や家族の病気、睡眠不足、引っ越し、生活リズムの乱れ など
仕事や学校でのストレス
人間関係の悩み、長時間労働、パワハラ・セクハラ、いじめ、評価プレッシャー など
ライフイベントや環境の変化
結婚・出産・育児、転職、進学、新生活、家族構成の変化 など
こうしたストレスが重なったり、長期間続いたりすると、 心がうまく対応できなくなり適応障害を発症することがあります。
大切なのは、自分がどのようなストレスに弱いのかを理解し、 無理をせず、必要に応じて専門機関へ相談することです。
適応障害になりやすい人の特徴
適応障害になりやすい人の特徴として、以下のような性格傾向が挙げられます。 これらの特徴を持つ方は、周囲の状況や他人の感情に敏感で、 ストレスを溜め込みやすい傾向があります。
- 真面目で几帳面
- 責任感が強い
- 完璧主義
- 周りの目や評価を気にする
- 人から頼まれると断れない
- 心配性で繊細
- 気持ちの切り替えが苦手
- 人に頼るのが苦手
- 他者を優先しすぎる
こうした傾向を持つ人は、周囲に気を配りすぎたり、 ストレスを内面に溜め込みやすかったりするため、 強いストレスがかかったときに心のバランスを崩しやすいとされています。
ただし、これらの性格だけが原因というわけではありません。 適応障害は、性格、環境、タイミング、ストレスの種類や強さなど、 さまざまな要因が重なり合って発症します。 どれほど心が強い人でも、過度なストレスが続けば発症する可能性があります。
自分の傾向を知ることは、ストレス対策や早期のセルフケアにつながります。 無理をせず、必要に応じて専門家へ相談することをおすすめします。
適応障害の診断基準
適応障害の診断には、アメリカ精神医学会(APA)が定める DSM-5(精神疾患の診断・統計マニュアル 第5版)の基準が用いられます。
以下のすべての要件を満たすことで、適応障害と診断されます。
診断基準(DSM-5)
① 明確なストレス因(生活上の変化や出来事)に対する反応として、 3か月以内に症状が現れること。
② 以下のいずれかが認められること。
- そのストレス因に対して、不釣り合いに強い苦痛を感じている。
- 社会生活、仕事、学校などの重要な機能に著しい障害をもたらしている。
③ 他の精神疾患(例:うつ病や不安障害など)の診断基準を満たさないこと。
④ 正常な死別反応ではないこと。
⑤ ストレス因がなくなれば、症状は通常6か月以内に消失すること。
適応障害は、特定のストレスが引き金となって発症し、 そのストレスが軽減されると自然に回復していくのが特徴です。
ただし、症状が長期化したり、うつ病や不安障害など他の疾患へ移行するリスクもあるため、 早めの受診と適切な治療が大切です。
適応障害の治療法
適応障害の治療では、ストレスへの対処法を身につけることが大切です。
そのために、精神療法・心理療法を基本とし、必要に応じて 薬物療法や環境調整(休職・異動・転職)を行います。
精神療法・心理療法
適応障害の治療の中心となるのが、カウンセリングや認知行動療法(CBT)です。
ストレスの原因を整理し、自分で対処できる部分とそうでない部分を見極めることを目的とします。 認知行動療法では、考え方や行動パターンの改善を段階的に行い、 「ストレスに強い思考・行動習慣」を身につけていきます。
- 集中力が続かない
- やる気が出ない
- 物忘れが増えた
このような症状がある場合は、一人で抱え込まず、 心療内科や精神科へ早めに相談することをおすすめします。
薬物療法(服薬治療)
不安や抑うつ、不眠などの症状が強い場合には、 抗うつ薬・抗不安薬・睡眠薬を使用することがあります。 薬の使用には以下のような方法があります。
- 頓服薬(症状が強いときのみ服用)
- 定期服用(毎日服用して症状を安定させる)
当院では、患者様の希望を尊重しながら治療方針を決定します。 「薬をなるべく使いたくない」という方も、安心してご相談ください。
休職による治療
仕事から一時的に離れることで、ストレスが軽減され回復しやすくなります。 一般的には1〜2ヶ月の休職をおすすめし、その後の状況に応じて延長することも可能です。
また、復職をスムーズに進めるために、 リワークプログラム(職場復帰支援)を活用する場合もあります。 休職について不安がある場合は、主治医と相談しながら進めましょう。
異動などの環境調整
職場環境を見直すことで症状が改善される場合があります。
例えば、
- 配置変更や業務内容の見直し
- 部署やポジションの変更
必要に応じて、診断書に「異動が適切である」と記載することも可能です。 ただし、会社の方針によって対応が異なるため、 焦らず慎重に検討することが大切です。
退職・転職の検討
現在の職場への復帰が難しい場合は、 転職や環境の変更を検討することもあります。 ただし、以下の点に注意が必要です。
- 抑うつ状態が強いときは、大きな決断を急がない
- まずは休職しながら、家族や主治医と相談する
状況を整理しながら、自分に合った働き方や環境を見つけていきましょう。


