森田療法とは?:わかりやすく解説
森田療法は、精神科医・森田正馬(1874–1938)によって考案された、日本発の心理療法の一つで、精神的な健康を改善するために用いられます。特に、不安やストレスを感じている人々に効果的だとされています。この療法の核心は、感情や思考を無理に変えようとしないことです。代わりに、現実の状況をそのまま受け入れ、適切に行動することに焦点を当てます。
森田療法の基本的な考え方
森田療法の基本的な考え方は、今、ここにある自分の状態をそのまま受け入れ、行動に移す」ことです。不安や緊張などの感情を無理に排除しようとせず、それらと共に生活しながら日常の活動に取り組みます。重要なのは、感情に振り回されず、自己コントロールを強化し、実際に行動を起こすことです。
森田療法の特徴と他の療法との違い
森田療法の特徴は、他の療法と比べて、感情や思考に対して積極的に介入しない点にあります。例えば、認知行動療法は思考のパターンを変えることに重点を置きますが、森田療法ではそのような思考の変更を求めません。森田療法では、不安や緊張を感じたままでも、それに対して行動を起こしていくことを重視します。これにより、感情に左右されることなく、前向きに行動し続けることができます。
森田療法が適応される疾患
社会不安障害(社会恐怖・対人恐怖)
人前で非常に緊張する、人とのコミュニケーションに苦労するなどの症状が見られます。
強迫性障害
様々な物が不潔に感じられ、繰り返し手洗いをするなどの症状が見られます。たとえその行動が馬鹿げていると分かっていても、特定の考えに取り憑かれてしまうことがあります(例:鍵の確認など)。
身体表現性障害
身体的な異常がないのにもかかわらず、身体的症状が続くことに囚われる状態です。これらの症状は、心理的なストレスと密接に関連しています。
軽症で慢性的なうつ
憂うつな気分、気力低下が持続することがあります。
以下のような方に森田療法は向いています。
- 生活を改善しようという意欲がある方
- 内気・慎重・完璧主義などの神経質傾向を持つ方
注意点
統合失調症や双極性障害など、精神病症状や気分エピソードが顕著な場合、単独の森田療法は推奨されません。症状の安定が得られた後で、部分的に森田的な考え方を取り入れるケースはありますが、主治医や専門家の判断が必須です。
森田療法のやり方は?自分でできる?
結論として、森田療法には専門家の指導の下で取り組むことが最適です。
森田療法では、不安の悪循環や症状に向き合う機会が多くなります。時には、不安な状況に敢えて飛び込むことが求められることもあります。
なかなか向き合えていない課題に直面する際、独断で進めると思いがけない反応が生じ、症状が悪化するリスクもあるのです。そのため、森田療法や精神医学のエキスパートである医療関係者から、適切な指導を受けるのが良いでしょう。
森田療法の入院治療・外来治療
森田療法は、入院と外来治療に分かれています。しかし、近年では入院施設の減少とともに、外来治療が主流となっています。ここでは、それぞれの治療法について紹介します。
入院治療
森田療法の本来の形態は、入院で行われる治療です。治療は約3ヶ月の入院期間を通じて、4つの段階に分けて進められます。入院中は、医師や看護師、カウンセラーとの面談を重ね、様々な方法で症状に向き合います。
第1段階:臥褥期(がじょくき)
この期間では、ただひたすら横になり、心身を休めることが求められます。目的は、自己の「とらわれ」や症状から逃げるのではなく、真正面から向き合うことです。
第2段階:軽作業期
施設内を歩いたり、病室内を観察したり、部屋の整理などの簡単な作業を行います。この段階では個人作業を通じて、他者とのコミュニケーションを取る準備をします。
第3段階:作業期
目の前の課題に積極的に関わり、達成を目指します。日々の取り組みや責任をグループ会議で確認し、仲間と共に過ごす時間を通じて成長します。悩みや症状を抱えながらも、仲間と共に目標を達成することで、「自分らしく生きる」ことの大切さを感じる時期です。
第4段階:社会復帰期
外出や宿泊を通じて、社会復帰の準備を整えます。これまでの経験を、仕事や日常生活に生かす段階です。
外来治療
外来での森田療法では、日記を用いた治療が行われます。この治療の目的は、日常生活の中で森田療法のアプローチを取り入れ、自分の傾向を客観的に理解することです。外来治療は、以下の手順で進められます。
悪循環を振り返る
まず、症状を引き起こす悪循環を振り返ります。
- どんな場面で
- どんな感情が湧き起こるのか
- どんな対応を取っているのか
- その結果、どのような反応が起こるのか
この悪循環を明確にし、森田療法では、不安や恐怖は「もっと充実した生活を送りたい」という欲望の裏返しと捉えます。自分を取り巻く悪循環を振り返り、恐怖に隠れる気持ちを探ります。
症状への向き合い方を変える
悪循環を把握したら、症状への対処方法を変えていきます。重要なのは、「症状を取り除こうとせず、共に生きていくものとして受け入れる」という考え方です。症状は「いずれ自然に消えるもの」という意識を持つことが大切です。このプロセスで、「不安や恐怖を抑えるべきだ」という考えを捨て、「自身のやり方で症状と向き合おう」という前向きな意欲を育てます。この変化により、「病気を克服できない」という絶望感を払拭することができます。
「あるがまま」に生きる
症状を受け入れ、不安や恐怖の背後にある欲望に気づくことで、「本当はこうしてみたい」という自己の意識が芽生えます。この段階に達すると、不安を感じつつも、自分の目的や希望のために主体的に行動できるようになります。恐怖を乗り越え行動を起こすことで、本来の欲求に気づくこともあります。森田療法では、このように自己を「あるがまま」に表現できるように生きていくことを目指します。