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大人のASD

大人のASD(自閉スペクトラム症)は治らない?特徴・治療について|堺そらはねメンタルクリニック

大人になってから「人間関係がうまくいかない」「社会で生きづらさを感じる」といった悩みを抱えていませんか?それはASD(自閉スペクトラム症)による特性かもしれません。本ページでは、大人のASDの特徴やチェックリスト、原因、診断、対応方法について詳しく解説します。

大人のASDとは?特徴と困りごと

ASD(自閉症スペクトラム症)は、発達障害の一つで、言葉や視線、表情、身振りなどを通じたコミュニケーションが苦手だったり、自分の気持ちを伝えたり、相手の気持ちを理解するのが難しい特性を持っています。また、特定のことに強いこだわりを持つことや、感覚過敏を伴うこともあります。ASDは子どもの頃からの特性ですが、大人になると社会生活の中で異なる形で現れることが多くなります。子どもの頃からASDの特性は存在しますが、成長に伴い本人が対人スキルを学んだり、周囲に合わせて行動を変えることで、一見わかりにくくなるケースがあります。ただし、本人の内面的な負担は大きく、「過剰適応」と呼ばれる状態からストレスが蓄積し、二次障害(うつや適応障害など)に至ることがあります。

大人のASD(自閉スペクトラム症)の特徴・苦手なこと

ASDの主な特性には、社会的なコミュニケーションの難しさ、特定の物事への強いこだわり(または反復性)、感覚の過敏さ(または鈍麻)などがあります。こうした特性により、対人関係や柔軟な思考・行動、社会的なふるまいを苦手とすることが少なくありません。
ここでは、大人のASDの方が特に苦手としやすいことについて詳しく見ていきましょう。

コミュニケーションや人との関わり

ASDの方は、相手の気持ちや発言の意図を推測するのが難しい傾向があります。そのため、会話の背景やニュアンスを理解できず、意図しない形で相手を不快にさせてしまうこともあります。
また、日常会話がある程度できる方でも、周囲に合わせようと過度に努力することで疲れやすくなることがあります。これを「過剰適応」といい、無理を続けることでうつや適応障害などの二次障害を引き起こす場合もあります。

場の空気を読む

ASDの方は、表情やジェスチャー、声のトーンなどの非言語的なサインを正しく読み取るのが難しいことがあります。また、その場の状況を全体として捉えるのが得意ではないため、適切な対応ができず、周囲と感覚のズレを感じる場面も少なくありません。とはいえ、これは「できない」わけではなく、あくまで傾向のため、本人の特性に応じた支援や環境の工夫、段階的なトレーニングを通じて、少しずつ理解を深めたり、対応の引き出しを増やすことも十分可能です。
一方で、「空気を読もう」と必要以上に努力するあまり、強いストレスを感じたり、結果的に大きな疲労や精神的な負担を抱えるケースもあります。だからこそ、周囲の理解と協力も、本人の安心感や社会参加への後押しとなります。

あいまいな指示の理解

ASDの方は、抽象的な指示や目的が明確でない要望に対して混乱しやすい場合があります。具体的な例や手順を示してもらえると理解がしやすくなります。独自の解釈で行動してしまうのは、あくまでコミュニケーションのミスマッチが原因で、本人の努力不足ではありません。
特に仕事の場面では、「何を」「いつまでに」「どのように」するのかを明確にしておくことが重要です。

臨機応変な対応

ASDの方は「こだわりの強さ」があり、決まった手順やルールが乱されると混乱しやすい傾向があります。これは、物事を一定に保ちたい「同一性保持の欲求」によるものです。
また、計画を立てたり優先順位をつけたりするのが苦手な「実行機能の弱さ」や、目の前の情報を素早く処理する「処理速度の遅さ」なども影響し、急な変更に適応するのが難しくなります。

刺激や情報量の多い環境

感覚過敏の特性から、刺激の多い環境を苦手とするASDの方は多くいます。たとえば、以下のような刺激が強いストレスになることがあります。

  • 蛍光灯の光やパソコン画面の明るさ
  • オフィスの空調の音や複数の料理の混ざった匂い
  • 人の往来が多い場所

対策として、ノイズキャンセリングイヤホンやサングラスを使用したり、パーテーションで作業環境を整えたりすることが有効です。

オンオフの切り替え

ASDの方には、「シングルフォーカス」と呼ばれる、一つのことに集中し続ける特性があります。これは長所でもありますが、気持ちの切り替えが苦手で、仕事が終わっても頭の中で考え続けてしまうことがあります。
また、「こだわりの強さ」により、作業を途中でやめるのが難しく、定時を過ぎても業務を続けてしまうケースもあります。

微細・粗大運動

ASDの方の中には、DCD(発達性協調運動症)を併存している方もおり、微細運動(箸を使う、字を書くなど)や粗大運動(立つ、座るなど)が苦手な場合があります。この影響で、日常生活の中でも不器用さを感じることがあります。

大人のASD(自閉スペクトラム症)のチェックリスト

以下のような特徴がある場合、ASD(自閉スペクトラム症)の可能性があります。身近な人で当てはまる点が多い場合、このチェックリストを参考にしてください。

  • 雑談や社交的な会話が苦手
  • 冗談や比喩表現を理解しづらいことがある
  • 空気が読めず、ストレートすぎる発言をしてしまう
  • 小説やドラマの登場人物の気持ちが分かりにくい
  • 趣味や興味のあることに強く没頭する
  • 相手の反応を気にせず、一方的に話し続けることがある
  • 音や匂いに敏感で、同時に複数の作業をこなすのが苦手
  • 数字や特定のルール・習慣へのこだわりが強い
  • 細かい作業が苦手で、不器用に感じることが多い

※このチェックリストは、一般的な特性をまとめたものであり、ASDの診断を確定するものではありません。気になる症状がある場合や、正確な診断を受けたい場合は、医療機関へ相談することをおすすめします。

ASD(自閉スペクトラム症)の原因

近年の調査研究により、ASDの原因は主に「遺伝」と「環境」によるものであることが示されています。これまで一部で言われていた「親の子育て」や「躾(しつけ)」が原因であるという説は、ほぼ否定されています。
しかし、ASDの原因に関しては依然として解明されていない部分が多く、具体的にどの遺伝子や環境要因が影響しているのかは明らかになっていません。そのため、現時点での調査結果を過信することはできません。

現在わかっていること

  • 遺伝が主な要因である。
  • 妊娠中の環境要因(母体の健康状態など)が影響する可能性がある。
  • 遺伝と環境が複合的に関与している。
  • ワクチンや子育てが原因ではない。

現在わかっていないこと

  • どの遺伝子がASDに関連し、どのように症状を引き起こすのか。
  • 親から遺伝する割合や、突然変異による発症確率。
  • 妊娠中の環境要因については、まだ多くが不明である。

発達障害の原因は多岐にわたりますが、これらの知見を元に、引き続き研究が進められています。

ASD(自閉スペクトラム症)の診断基準

大人の発達障害、特にASD(自閉スペクトラム症)の診断は、精神科や心療内科で行われます。ASDの診断基準にはDSM-5とICD-11の2つがありますが、ここでは医療機関で一般的に使用されるDSM-5の基準を紹介します。

DSM-5によるASDの診断基準

  1. 社会的コミュニケーションと対人関係の欠陥
    複数の状況で、社会的なコミュニケーションや対人関係において持続的な欠陥が見られる。
  2. 限定された反復的な行動様式
    行動、興味、または活動において、2つ以上の限定的で反復的なパターンが認められる。
  3. 発達初期からの症状
    1および2の症状が発達の早期に現れている。
  4. 機能障害
    社会的、学業的、または職業的な機能に支障が生じている。
  5. 知的障害や全般的発達遅延で説明できない
    これらの障害が、知的能力障害や発達遅延によってうまく説明されない。

これらの基準を満たす場合、ASDと診断されます。最新のDSM-5-TRでは、1の要件がさらに細かく追加されています。また、ICD-11でもDSM-5に準じた基準が採用されていますが、主に行政手続きや障害者手帳取得に用いられます。

大人のASDは治る?治療方法について

ASDは先天的な発達特性であり、「治る・治らない」というよりは「特性との付き合い方を学び、困りごとを軽減する」ことが重要です。必要に応じて薬物療法が行われる場合もありますが、環境調整や対人コミュニケーション支援などのアプローチを組み合わせることで、本人の生活の質を大きく向上できます。

ASDの特徴である独特な興味・関心パターンやコミュニケーションスタイルは、仕事、人間関係、日常活動など生活全般に影響を与えることがあります。重要なのは、これらの特性を「克服すべき問題」ではなく「自分らしさの一部」として受け入れながら、社会生活を快適に送るための工夫を見つけることです。

薬物療法による対処法

ASDの特性からくるイライラや不安、過度なこだわりがある場合、抗精神薬の服用により症状が軽減することがあります。このような症状が自傷行為や他者に対する攻撃行動に繋がる恐れがある場合、投薬である程度コントロールが可能です。また、ASDに伴う二次障害としてうつ病や不安症が現れることもありますが、薬物治療が有効な場合があります。

仕事に関する対処法

ASDの方が働きやすさを高めるためには、ソーシャルスキルの向上が大切です。他者の感情を理解したり、自分の感情をコントロールしたりするスキルを学ぶことで、社会生活がよりスムーズに進むようになります。ソーシャルスキルを学ぶためには、支援機関を利用することをお勧めします。発達障害者支援センターや地域障害者職業センター、障害者就業・生活支援センターなどの支援機関が役立ちます。

さらに、就労移行支援や自立訓練(生活訓練)などの福祉サービスを活用することで、将来に向けた可能性を広げることも有効です。