双極性障害とは?
双極性障害は、躁状態(または軽躁状態)とうつ状態が繰り返し現れる疾患です。
多くの方は、良いことや嬉しいことがあると気分が高揚し、逆に失恋や仕事で失敗したときなどは気分が沈みます。
しかし、双極性障害では、このような「気分の浮き沈み」を遥かに超えた激しい病的な症状が一定期間現れ、厄介な問題が次々と生じます。
どんな人が双極性障害になりやすい?
発症する年齢は20~30代が多く、発症率は約100人に1人と決して珍しい疾患ではありません。うつ病は女性の方が若干多い傾向があるとも言われますが、男性にも十分起こり得る病気です。一方、双極性障害では男女差は比較的少ないとされています。
「障害」という言葉がついていることで偏見を持たれたり、患者様が言葉に縛られたりすることがあるため、近年では「双極症」とも称されます。
うつ病と双極性障害の違いとは?見分け方と注意点
双極性障害とうつ病の主な違いは、経過中に躁状態が現れるかどうかにあります。躁の状態では、高いエネルギーを持ち、眠らずに活動的になるなど、活気にあふれた状態になりますが、深刻化すると話題がどんどん変わって話の内容にまとまりを欠いたり、不可能なことを述べたりする行動が見られ、周囲とトラブルを引き起こす可能性があります。
うつ病の特徴
- 気分が落ち込む状態だけが続く
- 不眠や食欲不振が中心症状
- 基本的に「気力が出ない」「何もできない」といった低エネルギー状態
双極性障害の特徴
- 気分の高揚(ハイテンション、活動的)な状態が見られる
- 睡眠時間が少なくても元気に過ごせる
- 急に話題が変わり、言動がまとまりを欠く
- 高額な買い物や無謀な行動に走ることがある
さらに、双極性障害にはⅠ型とⅡ型が存在します。うつ状態は両者で共通していますが、Ⅰ型では躁の状態がはっきりしており、重い特徴を持ちます。それに対しⅡ型では、生活上大きな影響を及ぼさない程度の比較的軽い躁状態が見られ、特に患者様は自身の状態を「絶好調」と考えがちで、見過ごされやすい傾向があります。
双極性障害Ⅰ型
- 強い躁状態を経験するタイプ
- 入院が必要になるほどの激しい症状が出ることもある
双極性障害Ⅱ型
- 軽躁状態とうつ状態を繰り返すタイプ
- 本人は「絶好調」と感じ、異変に気づきにくい
また、「躁うつ混合状態」といって、うつのような気分と躁のような行動が同時に現れることもあり、この状態は特に自殺リスクが高いため注意が必要です。
うつ病と双極性障害の見分け方
うつ状態と双極性障害を見分ける方法について、どのようなアプローチが考えられるでしょうか。
例えば、双極性障害におけるうつ状態では、睡眠時間が増える(または横になることが増える)や食べ過ぎなどの症状が見られることがあります。
一方、うつ病では不眠、食欲不振などが目立つため、同じようなうつ状態であっても、これらの違いが参考になります。
さらに、無気力なのにイライラしていたり、感情と行動が一致せず不安定であることも特徴とされています。この状態を「躁うつ混合状態」と呼び、うつから躁、躁からうつへの移行時にしばしば観察されます。この躁うつ混合状態の期間は、自殺のリスクも高くなるため、特に注意が必要です。
抗うつ薬によって治療しているうつ病の患者様が、服用によってイライラしたり怒りっぽくなったりした場合も、双極性障害が疑われます。
双極性障害の症状
双極性障害では、気分が高揚する躁状態と、気分が低いうつ状態が繰り返し現れます。躁状態では、性格が変わったように気分が昂り、かなり明るい様子を見せます。
一方、うつ状態では、心身ともにエネルギーが切れたかのような状態となり、後ろ向きな考えや気持ちが長期間続きます。
躁状態の症状
躁状態において、自己過信に陥ったり、ほとんど睡眠を取らなくても平気だと感じたり、夜通し話し続けたりすることがあります。
また、高額な買い物をする、暴言を吐くなどの行動も見られます。
- 自信過剰になる
- 睡眠不足でも元気
- 口数が増える
- 行動が活発化する
- アイデアが次々と浮かぶ
- 集中力が散漫になる
- 気性が荒くなる
- 高額な買い物、危険な行為をする
うつ状態の症状
うつ状態では、不快で暗い気持ちが終日続きます。中々眠ることができず、眠れても深夜や早朝に目を覚まされることがあります。興味を持っていた事柄にも関心が薄れ、絶望や無力感に囚われることもあります。
- 憂鬱な気分
- 眠りが浅い
- 寝ている時間が長い
- やる気が出ない
- 物事を楽しめない
- 疲れやすくなる
- 何も手につかない
- 自ら命を絶とうと思う
混合状態の特徴
混合状態とは、躁状態からうつ状態へ、あるいはうつ状態から躁状態へ変わるときなどに起こり得る現象です。
気分が重いのに行動が活発など、躁とうつの症状が同時に現れることがあります。気分が滅入っているにもかかわらず、焦燥感やイライラから行動量が増えるため、最悪の場合、自殺する危険性もあります。
混合状態の症状
- 基本的には躁状態でありながらも、不安を感じ、涙を流すことがある
- うつ状態であるにもかかわらず、頭の中で「あれもやろう、これもやろう」と考えて静かにいられない
双極性障害の原因と発症リスク
双極性障害の正確な原因は現時点では解明されていません。
しかし、多くの研究から、以下のような複数の要因が関与している可能性が高いとされています。
遺伝的な要因
双極性障害は、家族歴がある場合に発症リスクが高まることが知られています。一親等の家族に同じ病気の人がいる場合、発症の可能性が一般の人よりも高くなる傾向があります。
脳内の神経伝達物質のバランス異常
ノルアドレナリンやセロトニンなどの神経伝達物質の働きの乱れも、双極性障害に関与していると考えられています。これらは、脳内で感情や意欲、睡眠などをコントロールする重要な物質であり、その分泌や受容のバランスが崩れることで、気分の大きな変動を引き起こす可能性があります。
ストレスなどの環境的要因
仕事や人間関係のストレス、生活の変化、喪失体験などが引き金となって、双極性障害の症状が現れることもあります。ただし、こうしたストレスと発症との直接的な因果関係は、現段階では科学的に証明されていません。
ホルモンや薬物の影響
甲状腺機能亢進症のように、ホルモンバランスの乱れが躁状態の症状を引き起こすこともあります。
また、コカインやアンフェタミンといった薬物の使用が、躁症状の誘因になるケースも報告されています。
双極性障害の診断基準
双極性障害の診断は、身体疾患とは異なり、血液検査や画像検査などでは確定されません。診断には、国際的に広く認められているWHOのICDー10や米国精神医学会のDSMー5が使用されます。
また、急速な躁・うつの交代や繰り返しがみられる場合、「急速交代型」または「ラピッドサイクラー」と呼ばれます。
DSMー5による双極性障害Ⅰ型とⅡ型の診断基準は以下の通りです。
双極性障害Ⅰ型・Ⅱ型
双極性障害、Ⅰ型 | 躁のエピソードが1回でも観察されれば、双極性障害のⅠ型と診断されます。軽躁や抑うつのエピソードは考慮されません。 |
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双極性障害、Ⅱ型 | 過去に躁のエピソードが1度もなく、軽躁のエピソードが最低1度あること、そして抑うつのエピソードを経験していることが条件です。 |
躁と軽躁の違いは、日常生活や社会生活において、大きな影響を及ぼしているかどうかです。躁状態の時には、食事や睡眠、仕事、人間関係などが大きく影響を受けることがあり、入院が必要な場合もあります。
躁状態には気分の高揚だけでなく、イライラした気持ちが支配する可能性もあるため、注意が必要です。
混合状態
躁エピソードと抑うつエピソードが混在する混合状態の場合、DSM-5に基づいて診断される際には、次の基準に注意が必要です。
躁エピソードまたは軽躁エピソードの基準を完全に満たし、現在または直近の期間の大部分において、以下の症状のうち最低でも3つ以上が現れる必要があります。
- 著しい不快感や抑うつ感
- 興味や喜びの欠如
- 精神運動性の制止
- 疲労感や気力の低下
- 自己評価の低下・罪悪感
- 死に対する反復思想
気分循環性障害
双極性障害と似た疾患として、気分循環性障害が存在します。気分循環性障害は、双極性障害よりも比較的症状が軽いという特徴があり、診断の基準は以下のようになります。
- 2年以上、軽躁エピソードの規準を満たさない軽躁症状と、抑うつエピソードの規準を満たさない抑うつ症状が期間の半分以上見られる
- 症状のない期間が2カ月以上ない
双極性障害の治療
双極性障害の治療には、薬物療法と心理社会的治療が必要であるとされています。ただし、「心の悩み」とは異なり、カウンセリング単体では完全な回復が見込まれません。そのため、治療法には薬物療法を中心とし、それに補完する形で組み立てられます。
薬物療法
うつ病向けに用いられる抗うつ薬は、双極性障害のうつ状態にも効果がみられることはありますが、躁転(そうてん)リスクを高める恐れがあるため、通常は気分安定薬や非定型抗精神病薬と併用するなど慎重に用いられます。
双極性障害の治療法は、躁状態、抑うつ状態、維持期(症状が安定している状態)で異なります。
通常、気分安定薬や非定型抗精神病薬が使われますが、症状の多様性から薬の選択が複雑です。主治医とよく相談し、治療を受ける必要があります。中には、血中濃度を測定しながら投与量を注意深く調整する必要がある薬もあります。正確なデータ取得のために、処方通りに服用することが不可欠です。
特に注意が必要なのが、双極性障害のうつ状態に対する治療です。
うつ病向けに用いられる抗うつ薬は、双極性障害のうつ状態にも効果がみられることはありますが、躁状態へ切り替わる「躁転」のリスクがあるため、気分安定薬や非定型抗精神病薬と併用し、慎重に使用されます。
また、うつ病の治療がなかなかうまくいかない背景に、実は双極性障害が隠れているケースもあります。診断と治療方針は、医師とよく相談しながら丁寧に進めていくことが大切です。
心理社会的治療
心理社会的治療だけでは双極性障害の治療は完全には行えません。しかし、薬物療法と併用することで、治療全体をスムーズに進めるのに期待できます。ただし、双極性障害における心理社会的治療は、典型的なカウンセリングとは異なり、患者様が自身の疾患を理解し、受け入れ、病気を管理する手助けをする「心理教育」と呼ばれるものです。
心理社会的治療を通じて再発の兆候にすぐに気付き、適切に対処できるようになると、再発時に早期に治療を開始することが可能になります。再発を放置することは、双極性障害の悪化を招くため、これは極めて重要です。
双極性障害は一生治らない?再発と向き合うために
双極性障害は、再発のリスクを伴う慢性的な病気です。そのため「一生治らない」という表現を耳にすることもあります。しかし、正確には「症状の再発を防ぎながら、長期的に安定した状態を保つことが可能な病気」と言えます。
この障害は、適切な治療を受けることで症状を大幅にコントロールできることがわかっています。気分の波が再発しやすいという特徴があるため、医師との継続的な相談や治療が重要です。特に再発を予防するためには、気分安定薬の服用や、生活リズムを整えることが効果的です。また、ストレスを避ける工夫や、症状の早期発見のためのセルフケアも重要な役割を果たします。
双極性障害は、完全に「治った」と言い切ることが難しい病気かもしれませんが、適切な治療とサポートを受けながら、自分らしい生活を送ることは十分可能です。焦らず、専門家の助けを借りながら向き合うことが大切です。