TOPへ

強迫性障害

強迫性障害とは?症状・原因・診断基準・治療法・接し方まで解説

強迫性障害は、「確認せずにはいられない」「手を洗わずにはいられない」といった、繰り返しの思考や行動に悩まされる精神疾患です。本記事では、強迫性障害の特徴や症状、原因、診断基準、治療法に加えて、接し方やサポートのコツについても詳しく解説します。

強迫性障害とは?

強迫性障害は、日常生活に影響を及ぼす強い不安やこだわりを特徴とする疾患です。多くの方は「ドアに鍵をかけたかな?」や「鍋を火にかけたままかも?」といった不安を経験しているかと思いますが、これらが過剰になると、戸締りや火の元を何度も確認しても、不安が取り除けない状況になります。また、特定の数字にこだわり、生活が不便になることもあります。世界保健機関(WHO)は、強迫性障害を生活機能が大きく損なわれる疾患の一つとして位置づけています。

有病率と傾向

一般人口における生涯有病率は1~2%程度で、男女比はほぼ同等です。平均発症年齢は20歳前後で、男性の方がやや早く発症する傾向があります。

出典

松永寿人「強迫性障害の臨床像・治療・予後」『精神神経学雑誌』第115巻 第9号(2013年)PDF

なお、強迫性障害の発症要因には、性格的な傾向、過去の経験、ストレス、感染症など様々な要素が関連しているとされており、適切な治療によって症状の軽減や改善を目指すことが可能です。

強迫性障害の主な症状

「強迫観念」と「強迫行為」の2つの症状が現れます

強迫観念とは、頭から抜けない考えのことです。「不合理だ」と頭では理解していても、それを排除することはできません。強迫行為とは、強迫観念から生じる不安に駆られて行われる行動です。「やりすぎ」「意味がない」で自覚していても、その行為を止めることができなくなります。代表的な「強迫観念」と「強迫行為」には以下のようなものがあります。

代表的な強迫観念・強迫行為の例

不潔恐怖と洗浄

汚れや微生物の汚染への恐れから、過度に手洗いを繰り返したり、入浴、洗濯を行ったりします。ドアノブや手すりなど、汚れを感じる物に触れるのを避けることもあります。

加害恐怖

誰かに害を加えたのではないかという不安が消えず、新聞やテレビで事件や事故が報道されていないかを確認したり、警察や周りに確認を行ったりすることがあります。

 確認行為

戸締まりやガス栓、電気スイッチなどを過剰に確認する行動を取ります(何度も確認する、じっと見守る、指で確認する、手で触るなど)。

儀式行為

自己が選んだ手順を守らないと、何か恐ろしいことが起こると不安に押されます。日常生活や仕事、家事などを、常に同じやり方で行わなければならないと思うこともあります。

特定の数字への恐怖

不吉な数字や縁起の良い数字に固執することがあります。

物の配置、対称性への執着

物の配置に一定のこだわりを持ち、それに従わないと不安を感じます。

日常生活への影響と受診の目安

強迫性障害は、誰しもが普段当たり前に行うこと(例:戸締まりや手洗い)にの延長線上にあります。「少々神経質すぎるだけ」なのか「過剰だ」なのかをご自身で判断するのは難しいです。もし以下のような兆候があれば、専門の医療機関での相談が推奨されます。

日常生活に悪影響を及ぼしている

手洗いや戸締まりの確認に時間をとられ、何度も家に戻って火の元を確認することで、遅刻を繰り返すケースもあります。日々の強い不安や強迫行為による負担が大きくなるほど、心身が疲れて日常生活にも支障をきたします。

 家族や周りの方が困っている

火の元や戸締まりの確認を家族に繰り返し求めたり、アルコール消毒を強制したりするなど、周囲を巻き込む行動をとることもあります。 このような行動が続くと、人間関係にも支障をきたします。

ご自身では「まだ病気とは言い切れない」と感じていても、ご家族や友人がお困りのようであれば、念のため受診をご検討ください。

強迫性障害の症状を気にしない方法

丁寧に確認作業をする

確認作業を実施する際は、1つ1つ丁寧に行いましょう。強迫性障害の方々は、確認を繰り返してしまう傾向があります。初回の確認を綿密に行えば、その後の確認は不要です。適切に確認作業を行うことで、不安を軽減できます。

注意点

ただし、「丁寧に行う」ことを意識しすぎると、かえって強迫行為を強化してしまう場合があります。本来は、認知行動療法(特にERP:曝露反応妨害)の一環として、段階的に進めるのが望ましいため、自己判断のみで確認行為を繰り返さないように注意が必要です。強い不安が続いたり、自分だけでの対処が難しいと感じた場合は、専門の医療機関で認知行動療法(ERP)の支援を受けることを検討しましょう。

具体的には以下のポイントを押さえて、試してみてください。

  • 声に出す

  • 行動をゆっくりと実行する

  • 作業を一つずつ進める

手順を省略したり、適当に確認したりすることは、かえって不安を増幅させてしまいます。さらに、ご家族やパートナーなど周囲に確認作業を依頼することは、症状を悪化させる要因となります。周囲に巻き込んでも、最終的には自分の思い通りにはならず、不安が増して確認作業が増えてしまいます。確認作業は、周囲のサポートを求めるのではなく、自己完結で進めるように心掛けてみてください。

不安な気持ちを受け入れる

確認せずにいると不安に襲われるかもしれません。しかし、心配事をそのまま受け入れてみてください。不安を受け入れ、少しずつ向き合っていきましょう。心配を感じたからと、「すぐに取り除かなければならない」と考えるのは避けましょう。例えば、手が汚れていると感じて手を洗ったら、「完全に綺麗になっていなくても問題ない」と考えてみてください。不安になって確認したり手を洗ったりすると、再び不安に襲われます。少しずつ、ゆっくり不安を受け入れていきましょう。

深呼吸をする

不安な気持ちが高まってきたら、深呼吸して体をリラックスさせましょう。深呼吸は、ゆっくり、しっかりと行うことで、一時的に強迫思考から解放され、心も落ち着きやすくなります。

呼吸法の基本は、ちゃんと息を吐ききることです。「1・2・3」と頭の中で数えながら、ゆっくりと口から息を吐き出してみてください。息を吐ききったら、同じようにゆっくり3秒数えながら、今度は鼻から息を吸い込んでみてください。このサイクルを5〜10回繰り返すと、少しずつリラックスしていくことができるでしょう。

日頃から深呼吸のリズムに慣れておくことで、不安な時に効果的に対処することができます。焦らず、自然なペースで深呼吸を心がけてみてください。

強迫性障害の原因

強迫性障害は、生まれつきの性格や日常生活でのストレス、脳の機能異常など、さまざまな要因が複雑に絡み合って発症する「多因子性」の疾患と考えられています。
ここでは、それぞれの要因が強迫性障害を引き起こす理由について説明します。

生まれつきの性格

強迫性障害の原因の1つとして、生まれつきの性格傾向が関予していることがあります。使命感が強い方や周りに流されない方など、マイルールや規則を守って行動する傾向がある方は、いつも不安や疑念を抱えている傾向があります。これが過剰になると、強迫的な考えや行動へとつながる可能性があります。

ただし、性格だけが原因ではなく、あくまで多くの要因の一つに過ぎません。生物学的要因や環境的ストレスとの組み合わせによって、発症リスクが高まると考えられています。強迫性障害にかかりやすいとされる代表的な性格傾向は下記の通りです。

 使命感が強い

使命感に溢れている方は、自らに課す義務感を強く感じ、目標達成に向けて努力を惜しまない傾向にあります。ただし、使命感が過剰に強くなると、完璧主義やコントロール欲求に繋がり、全てを完璧にこなさなければならないという強迫性障害に繋がる恐れがあります。強迫性障害に繋がる考えや行動としては、物事が思い通りに進まないとイライラする、本当に正しいか何度もチェックする、完璧になるため何度も行動を繰り返すなどがあります。

周りに流されない

周囲の意見に惑わされない方は、しっかりとした信念や価値観を持ち、他者の評価に左右されない傾向にあります。これは大きな強みでもありますが、性格特性が過剰になると、マイルールや規則に執着し、それに従わないと不安や不快感を抱くことがあります。特定の行動・習慣を反復したいと感じる、特定の順番で事柄を処理しなければならないと思い込むといった症状に繋がる恐れもあり、日常生活に支障をきたすことがあります。

心配性

心配性の方々は、些細なことに対しても気になってしまい、不安や疑念が増してしまう傾向があります。ご自身や周囲について絶えず心配事を考えることは、不安感を和らげようとする強迫行動に発展する恐れがあります。

脳の機能異常

強迫性障害の発症には、脳の機能異常が関係していると考えられています。特に、脳内の「セロトニン」という神経伝達物質の働きが関与しているという説が有力です。セロトニンは感情や不安のコントロールに関わる物質であり、その働きが低下すると、不安や恐怖を抑える力が弱まり、強迫的な思考や行動が現れやすくなるとされています。

また、脳の中でも「前頭葉」や「線条体」などの領域が強迫性障害と関連していることが、画像研究などから報告されています。これらの脳部位の機能に異常があると、思考の切り替えが難しくなったり、不要な考えを抑制できなくなったりすることがあり、それが強迫症状として現れると考えられています。

このような脳の働きに関する異常は、生まれつきの要因だけでなく、環境的要因やストレスとの相互作用によっても引き起こされることがあります。

日常生活でのストレス

日常生活の中で受けるさまざまなストレスも、強迫性障害の発症や悪化に影響を与える要因の一つです。仕事や人間関係、家庭環境の変化、ライフイベント(転職、結婚、出産など)などがストレスとなり、それが心の負担となって不安や緊張を引き起こすことがあります。

強いストレス状態が続くと、脳の神経回路が過敏になり、不安を抑える力が弱まることで、強迫的な考えが浮かびやすくなったり、それに伴う強迫行動が現れたりすることがあります。また、ストレスによって「何か悪いことが起こるのではないか」といった過剰な心配が強まり、不安を打ち消すために確認や洗浄などの行動を繰り返すといった症状に繋がるケースもあります。

強迫性障害の診断方法

強迫性障害は、症状の内容や持続期間、日常生活への影響などをもとに診断されます。ここでは、主に使用されている2つの国際的な診断基準である「DSM-5」と「ICD-10」についてご紹介します。

 DSM

DSMはアメリカ精神医学会による精神疾患の分類と診断の手引きで、症状の現れ方に基づいて病気を分類します。数年ごとに改定されており、DSM-4では強迫性障害が「不安障害」の1つとされていましたが、DSM-5では「強迫症および関連障害群」にカテゴリーされるようになりました。

DSM-5の診断基準

DSM-5では、全ての診断基準が当てはまる場合に、その精神疾患であると診断されます。A基準は具体的な症状や病態を示し、B基準は社会生活への影響、C基準以降は除外診断に関する記載があります。

A基準
  • 強迫観念

持続的な思考や衝動・イメージがある

その考えを無視したり抑え込んだり、何かで置き換えようと試みる

  • 強迫行為

「繰り返しの行為や、心の中の行為を厳密に適応しなくてはいけない」と思いこむ

不安や苦痛を避けるために行動や行為を繰り返す

B基準
  • 強迫観念や強迫行為が1日1時間以上続く
  • 実際の苦痛を伴う(例: 手を洗い続けることで皮膚障害が生じる)
  • 日常や社会生活に支障が出る

上記のうちどれか1つ当てはまっていると、B基準に該当していると見なされます。

C基準およびD基準
  • 強迫観念や強迫行為が物質乱用に基づくものではない
  • 他の精神疾患の症状では説明できない

ICD-10

ICDは世界保健機構による疾病分類であり、統計に基づきDSMと似た考え方で分類されています。現在、強迫性障害は「精神性障害、ストレス関連障害および身体表現障害」の1つに分類されています。

医師は、診察の結果をこれらの診断基準に照らし合わせ、強迫性障害かどうかを判断します。また、強迫症状はうつ病、統合失調症など他の精神疾患でも現れるため、正確に見分ける必要があります。脳炎、脳血管障害、てんかんなどの脳器質性疾患でも見られることがあるため、これらを発症している可能性がある場合は、血液・髄液検査や頭部CT、MRI、脳波検査などを受けていただきます。

ICD-10の診断基準

強迫症状または強迫行為、または両方が少なくとも2週間連続して起こっており、生活する上での苦痛や妨げの原因となっています。

  1. 強迫症状は患者様自身の思考あるいは衝動として認識されなければならない。
  2. 抵抗しなくなったものが他にあったとしても、患者様が抵抗する思考・行為が少なくとも1つなければならない。
  3. 思考あるいは行為の遂行自体は、決して楽しいものではない。
  4. 思考や衝動は、不快でかつ反復性のあるもの。

ICD-10の診断基準で重要な点は、「強迫性症状が辛い衝動であると思っていること」と、「強迫行為そのものは決して楽しくないこと」で、依存の症状と線引きすることが強調されています。

強迫性障害の治療法

強迫性障害(強迫症)の治療では、薬物療法と認知行動療法(CBT)を組み合わせることが基本とされています。
それぞれの治療法の目的や特徴について、以下に詳しくご説明します。

薬物療法

強迫観念によって引き起こされる強い不安を和らげるために、主に「SSRI」という抗うつ薬が使用されます。不安感を軽減し、日常生活の負担を減らす効果が期待されます。副作用や効果の出方には個人差があるため、医師の管理のもとで継続的な調整が必要です。

 認知行動療法

認知行動療法(CBT)は、強迫観念と強迫行為が繰り返される「不安のサイクル」を断ち切るための治療法です。段階的に「不安を引き起こす状況」に直面し(暴露療法)強迫行為を行わずにその不安に耐える練習(反応妨害)を重ねていきます。不安を「感じても乗り越えられる」感覚を身につけることが目標です。

この治療法は簡単ではありませんが、継続することで症状のコントロールが可能になります。

治療の流れとポイント

強迫性障害の治療では、以下のようなステップを踏むことが一般的です。

  • まずは薬物療法で不安をコントロール
  • 心理教育で病気の仕組みを理解する
  • 認知行動療法を段階的に取り入れる

治療効果を高めるためには、ご本人の意欲と取り組む姿勢が非常に重要です。ご家族や医療スタッフとの連携も治療の支えになります。

強迫性障害の方への言葉かけ、接し方のポイント

強迫性障害の方への基本的な姿勢と心がけ

強迫性障害を抱える方々へのサポートでは、感じている恐怖や不安を理解しつつ、過度の共感は控えることが不可欠です。相手の気持ちに共感を示すこと自体は悪いことではないのですが、無意識で強迫観念を助長し、症状が悪化する恐れがあるのを理解しましょう。ご家族・友人など、患者様の近くにいる方は、焦らず長期にわたって支えましょう。

シーン別:具体的な声かけ・対応の工夫

親子関係での例

子供が清潔に対する強迫観念に苦しんでいる場合、親御さんは「今、手を洗わなくても大丈夫だよ」「手洗い回数を少しずつ減らしてみよう」「一緒に楽しい別の活動を見つけよう」と声をかけることが大切です。こうした方法で、子供の恐怖を理解しつつ、新しい行動を試すよう励ましましょう。

夫婦関係での例

例えば、パートナーが鍵を閉めたかを何度も確認する例があります。「鍵をちゃんと閉めた?」と聞かれた際は「1回確認したのなら大丈夫だと思う」「このまま外出しよう」と提案しましょう。こういったアプローチは、パートナーの不安を考慮しつつ、強迫行為に過剰に焦点を当てず、次の行動に焦点を合わせることを目指しています。その後も楽しい会話ができると良いでしょう。

強迫観念に苦しんでいる状況を目にすると、辛い気持ちになることもあるでしょう。しかし、その行動をずっと許容することは、回復を遠ざける可能性があります。

確認行動をすること自体を一緒に行ったり、代わりに行うよう求められたりすると、困ることもあるかもしれません。具体的な状況や関係性に合わせて、相手に寄り添いながら、回復を目指す言葉を選ぶ方法について一緒に考えてみましょう。

家族やまわりの友人の接し方について

家族や周囲の方々は、本人が焦らずに治療に取り組めるような環境を整えましょう。強迫性障害の治療にはある程度時間がかかり、忍耐も必要です。そのため、患者様には大きな負担がかかっています。

「ゆっくり進めましょう」「焦らず一緒に頑張っていきましょう」といった共感の声をかけながら、少しでも成果が見られたらその努力を褒めてあげてください。周囲からの評価は達成感を生み出し、治療への意欲を高めます。

あなたの辛さは大きいだろうけれど、無理せずに一緒に治療を続けていこうね」といった声かけを意識すると、過剰なプレッシャーを与えずに済みます。「早く治してほしい」という急かす言葉は避け、寄り添いの姿勢が大切です。励ましが負担になり、治療を妨げる恐れもあります。強迫性障害の治療には、想像以上に負担がかかります。家族や周囲の方々のサポートが、進行を左右することもあるため、慎重に付き合っていきましょう。