全般性不安障害とは?
全般性不安障害は、日常生活の中で漠然とした不安や心配を慢性的に抱える疾患です。ただし、単に心配しているだけなら問題ありませんが、絶え間ない不安や心配から少しずつ身体的・精神的な症状が現れるようになり、そこからさらに不安が増すという負のループに陥ります。
全般性不安障害の患者様は、持続的でかつ過剰な不安を抱えており、コントロールが難しいとされています。自らや家族に何か恐ろしいことが起こるのではないかと絶えず不安を感じ、落ち着かずに不穏な状態が続くため、些細なことにも敏感に反応してしまい、集中力が欠けてしまいます。そして、症状が進行するにつれ、睡眠や日常生活にも支障をきたし、通常の生活を送ることが難しくなってしまいます。
発症の原因
原因は未だ明確にされていませんが、神経質な性格や遺伝子の影響、現在直面しているストレスや自律神経の乱れなどが、その発症の一因とされています。
パニック障害や社交不安障害は、特定の状況が明確になりますが、全般性不安障害では、不安を感じる範囲が広範囲であり、日常生活のあらゆる側面に及びます。家庭、会社、学校、近所付き合いなどから、地震や海外の紛争など、ご自身に関係のある事柄だけでなく、ありとあらゆるものが不安の対象となり得るのです。他者が理解しにくいような心配事に取り組んでいると、周囲から病的だと見られることもあるかもしれませんが、日常的な不安に常に襲われている場合、自分よりも多く心配事を持つことによって、ただ「神経質」と片付けられ、病的な不安とは認識されないことがあります。患者様自身も、自らを心配性だと認識していることも珍しくありません。
全般性不安障害の症状
強い不安や心配が制御できずに、身体的症状と精神的な症状が悪循環し、心身の症状が現れてしまいます。
身体症状
- 頭痛、頭が重い感じ、頭部の圧迫感や緊張感、痺れ
- そわそわする感覚
- 朦朧とした感覚
- めまい、頭が揺れる感覚
- 自分の身体ではないように感じる
- 寒気や熱感、手足が冷える、または熱く感じる
- 全身で脈拍を感じる
- 便秘、頻尿
精神症状
- 些細なことで不安に襲われる
- 注意力が散漫になる
- 記憶力の低下
- 根気がなくなって疲れやすくなる
- イライラして怒りっぽくなる
- 些細なことが気になる
- 悲観的になり、人との交流を煩わしく思う
- 眠りにつきにくく、途中で目を覚める
その他の不安障害との違い
神経症・不安障害には様々なタイプが存在し、それぞれに異なる症状が現れます。
強迫性障害
強迫性障害は、強烈な不安や不快感(強迫観念)に悩まされ、それを緩和しようとして過剰な行動(強迫行為)に走る状態です。例えば、「手に汚れがついているのではないか」という激しい心配に襲われ、不必要に繰り返し手を洗ってしまうなどの症例が該当します。
解離性障害
解離性障害は、強いストレスやトラウマによる自己防衛の一環として、自己の意識を切り離すことで生じる疾患です。この障害では、「解離」と「転換」という主要な症状が見られます。
「解離」の症状には、行動や経験を完全に忘れる、自己のアイデンティティが曖昧になる、または複数の自己が存在するかのような感覚が挙げられます。一方、「転換」の症状では、身体の一部が機能しなくなったり、感覚や視覚、聴覚、嗅覚の一部が麻痺したりすることがあります。
心気症
自身が深刻な疾患(ガンや心臓病など)に罹患しているという強固な思い込みに囚われる状態です。患者様は、自身が病気だと周囲に訴えたり、不安感や抑うつ症状を抱えたりすることもあります。
医師の診察や検査で、疾患が存在しないことを説明しても、心気症の症状は長期にわたって続き、日常生活に悪影響を及ぼすことがあります。また、心気症はうつ病を同時に発症する事例もあります。
パニック障害
身体的な疾患がないのにもかかわらず、急な動悸や呼吸困難、めまいなどの発作が現れる状態です。発汗、吐き気、そして頭がぼんやりする感覚を伴うこともあります。
「発作が再発するのではないか」という深刻な不安から、外出や乗り物の利用が困難になることもあります。
恐怖症
恐怖症とは、特定のシチュエーションや物事に対して、異常に強い恐怖を感じる状態です。
恐怖を感じる状況にいると強い不安に襲われ、動悸や発汗、呼吸困難などの身体的な症状が現れることがあります。しかし、恐怖を感じる状況にいない場合は、普段の生活には何ら支障をきたしません。
代表的なものとして高所恐怖症が挙げられますが、閉所恐怖症、広場恐怖症、社会恐怖症なども存在します。
全般性不安障害の診断基準
ここでは、全般性不安障害を診断するための基準についてご紹介します。国際的に使用されている「DSM-5」と称される診断基準に関して、以下に示します。
【DSM-5の診断基準】
- 家族、健康、および経済状況など、2つ以上の活動や出来事に関して、過度な不安や心配を感じる
- 少なくとも直近の3カ月間、「不安などが起こらない日」より「不安や心配が起こる日」の方が多かった
- 不安や心配だけでなく、次の症状の1つ以上が見られる
不穏、緊張感、または過敏さ
- 筋肉の緊張
- 不安や心配だけでなく、次の行動のいずれかが見られる
- 否定的な結果を招く可能性のある活動・出来事を避けようとする
- 否定的な結果を招く可能性のある活動・出来事に対し、長期的に準備をする
- 心配の余り、行動や意思決定を長期間延期する
- 安心や安全を求めるために繰り返し行動する
- 普段の生活や仕事、その他の重要な分野において、強い苦痛や障害が生じる
上記に当てはまる場合、全般性不安障害の可能性が考えられます。ただし、症状は個人によって異なるため、診断基準だけで一概に判断できるわけではありません。明確な診断を受けるには、医療機関を受診する必要があります。
治るきっかけになることとは?
全般性不安障害が改善に向かう「きっかけ」は人によってさまざまですが、共通して見られるのは「正しい理解と適切な治療を受けること」です。以下は、多くの患者さんにとって回復のスタートとなる主なポイントです。
専門医との出会い
信頼できる医師との出会いが、不安の軽減と治療継続の大きな支えになります。
病気であると気づくこと
「ただの心配性」ではなく、治療が必要な症状だと自覚することが第一歩です。
周囲の理解とサポート
家族や友人に打ち明けたことで、気持ちが軽くなったという声も少なくありません。
認知行動療法や薬物療法の効果を実感すること
一度でも「不安が和らいだ」体験をすることで、希望が生まれます。
「治るきっかけ」は突然やってくることもありますが、多くの場合、積み重ねの中で見えてくるものです。
全般性不安障害の治療法
まず、全般性不安障害の治療は、患者さん一人ひとりの状況に合わせて個別に計画されます。治療方針を決定する際には、不安や心配の重症度、うつ病などの併存する精神疾患の有無、身体疾患の存在、アルコール依存や自殺念慮の有無などを総合的に評価します。
また、過去の治療効果、利用可能な医療サービスと費用、そして何より患者さん自身の希望も重要な要素となります。治療の最初の目標は、急性期の不安症状の軽減と日常生活の質(QOL)の回復です。全般性不安障害はうつ病と併存することが多く、うつ病発症の危険因子となる場合もあるため、両方の症状に配慮した総合的なアプローチが必要です。
薬物療法
全般性不安障害(GAD)の薬物療法では、科学的根拠に基づいた薬の選択が大切です。現在、多くの国のガイドラインで第一選択薬として推奨されているのは、SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)とSNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬)です。
SSRI:パロキセチン、セルトラリン、エスシタロプラム
SNRI:デュロキセチン、ベンラファキシン
これらの薬は、プラセボ対照試験において有効性が確認されています。ただし、日本ではGADに対する適応が正式に認められていない点には注意が必要です。ただし、日本国内では全般性不安障害に対する適応が正式に認められていない点には注意が必要です。
ベンゾジアゼピン系薬の位置づけ
ベンゾジアゼピン系抗不安薬(BZD)は即効性があり、日本では広く使われていますが、長期使用による依存や耐性形成のリスクがあります。
そのため、BZDは治療初期の短期間(1ヶ月以内)の使用に限定し、主にSSRIやSNRIの効果が現れるまでの補助的な役割として、短期使用にとどめるのが望ましいとされています。そのほかにも、
- アザピロン系抗不安薬(タンドスピロン)
- 抗ヒスタミン薬(ヒドロキシジン)
といった選択肢も、各国の治療指針に取り上げられています。
治療の考え方とコミュニケーション
薬物療法は、症状の悪循環を断ち切り、生活を立て直すための補助的な手段として位置づけられます。完治を目指すのではなく、不安との付き合い方を見つけるための一歩として考えることが重要です。治療を成功させるには、医師と患者さんの信頼関係が欠かせません。薬の効果や副作用については率直に話し合い、疑問や不安があれば遠慮せずに相談しましょう。
精神療法(認知行動療法)
全般性不安障害の治療では、薬物療法と並んで精神療法が非常に重要です。
中でも、認知行動療法(CBT)は高い効果が証明されており、各国のガイドラインでも推奨されています。
認知行動療法の内容
CBTでは、不安の悪循環を断ち切るために、次のようなアプローチを組み合わせて行います。
- 心理教育
- 症状管理法・リラクゼーション技法
- 認知再構成法(考え方の見直し)
- 心配事への段階的な暴露
- セルフモニタリング
- 不安への対処スキルの習得 など
これらを通じて、「不安に過度に意識を向けてしまう状態」や「偏った思考パターン」を改善していきます。
初診時の対応と支持的アプローチ
全般性不安障害の患者さんは、まず内科などで身体症状を訴えて受診されることが多い傾向があります。そのため、最初は「よくここまで耐えてきましたね」という共感的な姿勢がとても大切です。
身体症状も含めた不安の悪循環には、「不安への注意の集中」や「偏った認知」が深く関係しています。
これらを患者さんと一緒に理解していくことが、治療の第一歩になります。
日常生活でできる全般性不安障害の対処法

全般性不安障害の改善には、医療機関での治療だけでなく、日常生活でのセルフケアがとても重要です。普段の生活習慣を少し見直すだけでも、不安の感じ方が和らぐことがあります。
日常でできる主な対処法
生活リズムを整える
朝起きる時間・寝る時間をなるべく一定にし、規則正しい生活を心がけましょう。
適度な運動を取り入れる
ウォーキングや軽いストレッチなど、体を動かすことで心もリフレッシュされます。
リラクゼーション法を実践する
深呼吸、瞑想、ヨガ、マインドフルネスなど、不安を鎮める方法を試してみましょう。
睡眠の質を高める
寝る前のスマホやカフェインを控え、ぐっすり眠れる環境を整えることも大切です。
カフェイン・アルコールの摂取を控える
これらの刺激物は不安症状を悪化させることがあるため、控えめにしましょう。
ストレス管理法を見つける
「書き出す」「信頼できる人に話す」「一人になって休む」など、自分に合った方法でストレスを発散しましょう。
対処法は一人ひとり違います
こうした工夫は、薬物療法や精神療法と組み合わせることで、より高い効果が期待できます。まずは「できそうなこと」から少しずつ試し、自分に合った対処法を見つけていくことが大切です。不安に振り回されすぎず、自分のペースでコントロールしていけるように、医師やカウンセラーと相談しながら進めましょう。