認知症とは
認知症とは、様々な疾患によって、脳の神経細胞の機能が少しずつ変化し、認知機能(記憶、判断力など)が低下し、社会生活に支障をきたす状態です。
高齢化に伴い増加する認知症とMCI
日本では高齢化の進行に伴い、認知症と軽度認知障害(MCI)を抱える高齢者の数が年々増加しています。
厚生労働省の2022年度の調査によると、65歳以上の高齢者のうち12.3%が認知症、15.5%がMCIであると推定されており、合わせると約28%、つまり高齢者の約3人に1人が認知機能に関する問題を抱えていることになります。
なお、MCI(軽度認知障害)は、記憶力や判断力に軽い障害がみられるものの、日常生活には支障をきたさない状態を指します。すべてのMCIが認知症に進行するわけではありませんが、年間に10〜15%程度が認知症へ移行するとされています。
2040年以降も増え続ける認知症高齢者
また、65歳未満で発症する「若年性認知症」も注目されています。日本では平均発症年齢が約54歳とされており、働き盛りの世代に影響を及ぼすことから、早期の支援体制が求められています。
将来的には、認知症高齢者数が2040年に約584万人、2060年には約645万人に達すると予測されており、認知症やMCIを抱える方々が安心して暮らせる社会の整備がますます重要となっています。
出典
認知症の主な種類
代表的な認知症として、以下のものが挙げられます。
アルツハイマー型認知症
アミロイドβなどの異常なたんぱく質が長年かけて脳内に蓄積し、神経細胞を破壊し、脳に萎縮が起こることで発症します。初期段階では、昔のことを覚えている一方で、直近にあったことを忘れやすくなります。進行とともに時間や場所の感覚がなくなり、状況に応じた判断をとるのが難しくなります。
血管性認知症
脳梗塞や脳出血などによる脳血管障害(一部の神経細胞に栄養や酸素が届かなくなる)によって発症します。高血圧や糖尿病などの生活習慣病が主な危険因子で、脳血管障害が起こるたびに進行します。症状の内容は、障害を受けた部位によって変わります。
レビー小体型認知症
「レビー小体」と呼ばれる異常なたんぱく質が脳内に蓄積し、神経細胞が破壊されることで発症します。幻視や手足の震え、筋肉の硬直などの症状が現れ、歩幅が小刻みになり転びやすくなります。
前頭側頭型認知症
脳の前頭葉・側頭葉で神経細胞が減少し、脳が萎縮することで発症します。感情のコントロールが難しくなり、社会のルールを守れなくなることがあります。
認知症の始まりのサイン・初期症状をチェック
認知症の初期症状として、以下の5つの症状がよく見られます。以下のチェックリストに当てはまる症状が多いほど、認知症を発症している可能性が高くなり、医師の診断・治療が必要となります。
☑記憶障害(もの忘れ)
同じことを何度も聞いたり、同じ物を何度も買ったりする。
☑見当識障害
今日の日付や通い慣れた道が分からなくなる。
☑理解力・判断力の低下
テレビの内容が理解できなくなる。
☑実行機能障害
料理の味付けが変わる、家電の使い方を忘れる。
☑性格の変化
イライラしやすくなったり、塞ぎ込んで何事も億劫になったりする。
※チェックリストはあくまで参考です。
当てはまる項目が多いほど、認知機能の低下が疑われる可能性がありますが、必ずしも認知症とは限りません。気になる場合は、早めに専門医やかかりつけ医に相談しましょう。
認知症の方が人の話・言う事を聞かない原因
認知症の方が人の話・言うことを聞かない原因として、以下のものが挙げられます。
記憶障害
認知症が進行すると、過去の経験や出来事の記憶が薄れてしまいます。そのため、予定や指示を思い出せず、言うことを聞かないように見えることがあります。カレンダーやスケジュール帳を使って日常の予定を確認することで、改善する可能性があります。
見当識障害
時間や場所を正確に認識することが難しくなり、過去の出来事を現在のものと勘違いすることがあります。そのため、指示や要求が状況に合っていないと感じ、言うことに従わないことがあります。
実行機能障害
複数の情報を処理する能力が低下し、計画的に行動することが困難になります。これにより、指示や要求を理解し、従うことが難しくなります。
失行
失行とは、機能障害がないにもかかわらず、日常的な動作や物の操作が難しくなる状態です。これにより、着替えやお茶を入れるなどの動作が難しくなり、言われたことを実行できなくなることがあります。
失認
失認とは、自分の体や周りの物、空間などの認識が難しくなる状態です。そのため物事を適切に認識・理解することも難しくなり、それにより言うことを聞かないと感じることがあります。
理解力・判断力の低下
認知症によって複雑な話や情報の処理が難しくなり、適切な理解や判断ができなくなるため、言うことを聞かないと感じることがあります。
体調不良
痛みや不快感、倦怠感などにより集中力が低下し、指示を正確に捉えられなくなります。そのため、周囲にとっては「言うことを聞かない」と感じることがあります。
認知症の原因とリスク要因
認知症はさまざまな要因が重なって発症します。ここでは、認知症を引き起こす原因やリスク因子について詳しく解説し、予防につながるポイントも紹介します。
認知症を引き起こす主な要因
生活習慣の影響
生活習慣は認知症リスクに大きく関わります。例えば、不規則な食生活や運動不足、睡眠の質の低下は脳の健康を損ねる要因となります。また、高血圧や糖尿病、肥満といった生活習慣病も認知症のリスクを高めるとされています。これらのリスクを軽減するためには、バランスの取れた食事、適度な運動、十分な睡眠を心がけることが重要です。
遺伝的・環境的な要因
認知症の発症には、遺伝的な要因と環境要因が複雑に絡み合っています。家族歴がある場合や特定の遺伝子変異を持つ人はリスクが高いとされていますが、必ずしも発症するわけではありません。一方で、教育水準や社会的な活動の頻度といった環境要因が脳の予備力に影響を与え、認知症の予防や進行に影響を与えることがわかっています。
若年性認知症と高齢者の違い|発症年齢によって原因は異なる
認知症は一般的に高齢者に多く見られる病気ですが、若年層においても発症することがあります。高齢者の場合、アルツハイマー型認知症や血管性認知症が主な原因となることが多く、加齢による脳の変性や血管の損傷が影響します。一方、若年層では遺伝的要因や外傷、脳炎など特定の病気が関与していることが多く、発症の背景が高齢者とは異なる点が特徴です。
認知症が急に悪化する原因とその対処法
認知症は、ある日突然症状が悪化したように見える要因としては、長期間の孤立や強いストレス、不適切な薬の服用などが関係していることもあります。ただし、実際には感染症、脱水、睡眠不足などの身体的な不調が一時的に認知症の症状を悪化させている場合もあるため、症状の変化に気づいたときには、早めに医療機関を受診し、原因を見極めることが大切です。
認知症の診断方法
複数の検査を行ってから認知症の診断をつけます。ここでは、実際に行われる検査の種類・内容について解説します。
認知症の検査の流れと主な検査内容
認知症の原因は多岐にわたりますし、単純な物忘れでないか確認するため、複数の検査を組み合わせてスクリーニングし、原因を見つけ出します。
問診(医師によるヒアリング)
患者本人や家族からの聞き取りにより、症状の経過や生活の様子を確認します。これを基に、必要な検査が選定されます。
画像検査(脳の構造や機能をチェック)
CT・MRI(構造画像検査)
脳の萎縮や出血、腫瘍などを確認する検査です。特にアルツハイマー型認知症では、海馬などの脳の特定部位の萎縮が見られることがあります。
SPECT(脳の血流検査)
脳のどの部分で血流が低下しているかを可視化し、認知症のタイプを鑑別する際に用いられます。
PET(脳の糖代謝検査)
脳内のブドウ糖の代謝状態を調べる検査で、アルツハイマー型認知症や前頭側頭型認知症などの鑑別に有効です。
MIBG心筋シンチグラフィー
心臓の交感神経の働きを見る検査で、レビー小体型認知症と他の認知症との鑑別に役立ちます。パーキンソン病の診断にも用いられることがあります。
DaTスキャン(ドパミントランスポーターシンチグラフィー)
脳内のドパミン神経の働きを調べる検査で、特にパーキンソン病やレビー小体型認知症の診断・鑑別に有効です。
血液検査・尿検査
合併症による甲状腺機能低下などの有無を確かめるために行います。
心理・認知機能テスト
心理状態を確認するため、心理検査も実施されることがあります。ただし、これらの検査は全ての医療機関で行われるわけではありません。症状や問診内容に考慮しながら検査を実施します。
改訂長谷川式スケール(HDS-R)
改訂長谷川式スケールは、日本では一番利用されている認知機能テストです。簡単な記憶力テストである9問に答え、認知機能を調べます。30点満点中、20点以下の場合は認知症が疑われます。
ミニメンタルステート検査(MMSE)
改訂長谷川式スケールと似ている認知機能テストです。医師の質問に患者様が答える検査という点は似ていますが、質問の数や細かさ、質問内容の分野などは長谷川式スケールより広いです。そのため、何が苦手で、何ができているのか判断しやすいというメリットがあります。
23点以下だと認知症、24~27点だと軽度認知症の疑いがあるとされています。
時計描画テスト
神経性認知機能障害の発見に役立つテストです。時計の絵を描くだけなので、質問に答えることが苦手な患者様にも取り組みやすいとされています。
指示の単純な従事だけでなく、どこでつまずいたか、どういったヒントを出すと描けるかなど、細かな様子をチェックしていきます。
ウェクスラー記憶検査(WMS-R)
11の記憶に関する質問に答えるテストです。この試験は世界的に使用され、記憶力だけでなく、集中力や注意力なども測定することができます。
効果は高い一方で、時間がかかるというデメリットがあります。認知に問題がある患者様や高齢の方々は、検査を最後まで受けることも難しいかもしれません。
アルツハイマー病評価スケール(ADAS)
認知症が疑われる方や、発症している患者様に対して実施されます。11項目の質問に回答し、記憶・今の季節・時の判断に問題がないかチェックします。
高齢者うつスケール(GDS)
うつ状態の有無を評価するための質問形式の検査です。これは5つの質問を通して、うつ傾向を簡易的にチェックできるもので、点数が高いほどうつの傾向が強いと判断されます。特に高齢者のうつスクリーニングにおいて、手軽に実施できることから広く活用されています。
「MIREVO(ミレボ)」を使用した検査
2024年から保険適用となった「MIREVO(ミレボ)」という新しい検査機器も登場しています。ミレボはタブレット端末を使って、うつ症状に加えて認知機能の状態も定量的に評価できるのが特徴です。検査は数分で完了し、患者さんにとっても負担が少なく、初期評価やスクリーニング検査の一環として注目されています。
MCI(軽度認知障害)を早期発見する検査の重要性
認知症の前段階であるMCI(軽度認知障害)を早期に見つけることで、進行を抑える生活習慣の改善や治療の選択肢が広がります。気になる症状がある場合は、早めに医師に相談することをおすすめします。
認知症は治せるの?治療法と家族にできるサポート
認知症は完全に治癒することが難しい病気ではありますが、症状の進行を遅らせたり、日常生活の質を向上させるための治療やケアが可能です。また、患者さん本人だけでなく、家族や周囲のサポートも重要な役割を果たします。
認知症の治療法
認知症の治療には、大きく分けて薬物療法と非薬物療法があります。
薬物療法
アルツハイマー型認知症に使用される薬は、脳内の神経伝達物質の働きを調整し、記憶力や思考力の低下を抑える効果があります。また、血管性認知症では高血圧や糖尿病などの基礎疾患を管理することで症状を安定させることが可能です。
非薬物療法
認知症患者さんの日常生活を支えるためには、リハビリテーションや認知訓練、音楽療法などが効果的とされています。また、患者さんの興味や能力に応じた活動を取り入れることで、症状の安定化や精神的な安心感が得られることがあります。
家族に求められるサポーターとしての役割
認知症のケアにおいて、家族は患者さんの日々の生活を支える重要な存在です。
ただし、介護の負担を一手に引き受けると、家族自身が心身の不調をきたす場合も少なくありません。地域の介護サービスやケアマネジャー、訪問看護などを活用し地域の介護サービスや専門機関、ケアマネジャー・訪問看護などをうまく活用し、「家族が1人で抱え込まない体制」を整えることが大切です。