ギャンブル依存症とは?—症状とその原因
ギャンブル依存症は、娯楽として始めた賭け事が自分に有害な結果をもたらしているにもかかわらず、それを止められない状態を指します。たとえ「やめた方が良い」と感じていても、強い渇望感により、賭け事を続けてしまう病的な状態です。
依存症と脳の働き
ギャンブル依存症は、2013年の米国診断統計マニュアル(DSM-5)で、アルコールや薬物依存症と同じカテゴリーに分類されています。脳の報酬系が関与しており、ギャンブルで得た勝利体験も報酬系に反応します。繰り返しギャンブルを行うことで、勝利への執着が強まり、制御が難しくなることがあります。
日本の状況と今後の展望
日本では「ギャンブル依存症」という表現が広く使用されていますが、世界保健機関(WHO)のICD-11では「ギャンブル行動症」と呼ばれています。今後、一般的な表現が変わる可能性もあり、現状に応じた表現が求められるでしょう。
ギャンブル依存症のチェックリスト
あなたは大丈夫?自己診断リスト
以下の質問に「はい」か「いいえ」で答えてみてください。いくつかの質問で「はい」が多くなった場合は、ギャンブル依存症の可能性があります。自分の状態を見直し、必要なサポートを受けることをおすすめします。
- ギャンブルをしたくてたまらなくなることがある。
- ギャンブルをしている時間が長くなり、予定していた時間を超えてしまうことがよくある。
- ギャンブルのためにお金を借りることがある。
- ギャンブルで負けた場合、それを取り戻すためにさらにギャンブルをすることがある。
- ギャンブルのために家族や友人との関係に亀裂が入ったことがある。
- ギャンブルをしていることを隠したり、嘘をついたりすることがある。
- ギャンブルのせいで仕事や学校に影響が出ている。
- ギャンブルの結果、金銭的な問題や精神的なストレスを感じることが多い。
- ギャンブルをやめようと思っても、やめられない。
ギャンブル依存症になりやすい人の特徴とは?
気質的・性格的に負けず嫌いでストレスを内面化しやすい方や、他者に頼らず一人で問題を抱え込むタイプの方はギャンブル依存症のリスクが高まると言われます。ただし、個人差が大きく、特定の性格だけで発症を決めつけることはできません。また、幼少期にギャンブルを経験したり、依存症の家族がいたり、過去に大きく勝利した経験がある方もそのリスクが高いでしょう。性別では男性の方が女性よりもギャンブル依存症に陥りやすく、さらに障害や精神疾患、遺伝子の影響も考えられます。
ギャンブル依存症の末期症状
金銭感覚の崩壊
ギャンブル依存症が進行すると、金銭感覚や生活全般に大きな影響を与え、次第にその症状が深刻化します。依存症の人々は、ギャンブルを中心に物事を考えるようになり、思考が歪み、常識外れな行動を取ることが増えていきます。最も顕著な変化が金銭感覚の崩壊です。家族の預金を無断で使い、借金を背負い込んでも、問題意識を持つことが少なくなり、「まだ余裕がある」と感じてギャンブルを正当化し、ほかの重要な事柄に目を向けなくなります。このような行動は、依存症が病気であることを示す一例です。
一時的な反省と再発の繰り返し
依存症に苦しむ多くの人は、一度はギャンブルをやめる決意をします。家族との約束や誓約書を交わしたり、ギャンブル関連のアイテムを処分したりすることもありますが、意志の力だけでは依存症を克服するのは非常に困難です。反省や約束が一時的であり、再びギャンブルに手を出してしまうことが多いのです。このような再発の悪循環が続くと、家庭や職場で深刻な問題が表面化します。
破綻を迎える家庭と職場
借金や連続欠勤、家庭内での争いが続き、最終的には家庭崩壊や職場での失職という状況に追い込まれることがあります。周囲に見放され、絶望感を抱えるようになると、自己嫌悪に陥り、自暴自棄に至ることもあります。最悪の場合、深刻な精神的苦痛から自殺を考える人もいます。
違法行為に手を染めるリスク
そして、打つ手がなくなった結果、違法行為に手を染めることもあります。ギャンブルを続けるために嘘をついたり、借金を繰り返したりすることが増え、最終的には家族の預金を無断で使ったり、会社の資金を横領したりするようになります。本人は追い詰められ、正しい判断ができなくなり、手段を選ばずギャンブルを続けようとします。このような状態では、もはや周囲との信頼関係は崩れ、問題はさらに深刻化します。
ギャンブル依存症は、放置しておくと取り返しのつかない事態に進展します。自分自身や周囲に大きな影響を与える前に、早期に専門の治療を受けることが重要です。
ギャンブル依存症の診断基準
ギャンブル依存症の診断において広く使用されている基準には、以下の3つがあります。
- DSM-5
- サウスオークス・ギャンブル・スクリーン(SOGS)
- ギャンブラーズ・アノニマス(GA)による20の質問
それぞれについて詳しく説明いたします。
DSM-5
DSMは、精神疾患の診断において最もよく使用されているマニュアルの一つで、ギャンブル依存症の診断にも使用されます。最新のDSM-5では、ギャンブル依存症の特徴を示す9項目のうち、4項目以上に該当すること(基準A)と、「その賭博行為は躁病エピソードではうまく説明できないこと」(基準B)を満たす場合、ギャンブル障害と診断されます。基準Bは、躁状態の際にのみギャンブルにのめり込む場合、その行動が躁病に起因するものであるため、ギャンブル障害としては診断されないという意味です。
DSM-5によるギャンブル障害の診断基準
A. 臨床的に重要な機能障害や苦痛を引き起こす持続的かつ反復的な問題賭博行為が、過去12ヶ月以内に以下の4項目(またはそれ以上)に該当する場合:
- ギャンブルにより興奮を得るために、掛け金を増やす欲求。
- ギャンブルを中断したり中止したりすると落ち着かない。
- ギャンブルを制限しようとするが成功しなかった。
- 賭博に心を奪われ、過去の体験を再体験したり、次の賭けの計画を立てることを常に考える。
- 無気力、罪悪感、不安、抑うつなどの気分の時にギャンブルをすることが多い。
- ギャンブルで金を失った後、取り戻すために賭けを続ける。
- ギャンブルへの依存を隠すために嘘をつく。
- ギャンブルによって人間関係、仕事、教育、職業機会を失ったり危険にさらした。
- ギャンブルによって経済的困難を避けるために他人から金を借りた。
B. 賭博行為は躁病エピソードでうまく説明できない。
ギャンブル障害の程度
- 軽度:4〜5項目に該当
- 中等度:6〜7項目に該当
- 重度:8〜9項目に該当
SOGS
サウスオークス財団が開発したSOGS(サウスオークス・ギャンブル・スクリーン)は、ギャンブル依存症の診断に用いられる評価基準です。特に借金に焦点を当てた質問が特徴で、5点以上を「ギャンブル障害」、3〜4点を将来ギャンブル依存症になるリスクが高い「問題賭博者」としています。SOGSは記入式で、当事者が自ら答え、その結果を専門家が評価して診断の参考にします。
SOGSによるギャンブル障害の診断基準
- ギャンブルで負けた後、取り返すために別の日に再びギャンブルをする。
- 負けたことを隠すために勝っていると嘘をついた。
- ギャンブルのせいで問題が起きたことがある。
- ギャンブルにハマりすぎたことがある。
- ギャンブルのせいで非難を受けたことがある。
- ギャンブルの結果を悔い、悪いと感じたことがある。
- ギャンブルをやめられないと感じたことがある。
- ギャンブルに関する証拠を隠したことがある。
- ギャンブルに使う金について家族と口論したことがある。
- 借金をギャンブルに使ってしまい、返せなくなったことがある。
- ギャンブルのために仕事や学業を放棄したことがある。
(その他、ギャンブルに使用した金の調達方法や、ギャンブルに関する問題があるかどうかの質問も含まれます)
GAの20の質問
ギャンブラーズ・アノニマス(GA)が作成した「20の質問」は、過去のギャンブル行動について自ら評価するもので、7項目以上に「はい」と答えると「強迫的ギャンブラー」と診断されます。この質問はすべて過去形で記載され、現在の症状だけでなく過去における強迫的なギャンブル行動の有無を評価します。
GAの20の質問(抜粋)
- ャンブルで負けた時、再びギャンブルをして取り戻そうとしたか。
- ギャンブルで負けた時、勝っていると嘘をついたことがあるか。
- ギャンブルのために問題が生じたことがあるか。
- ギャンブルにはまってしまったことがあるか。
- ギャンブルのために非難されたことがあるか。
(その他の質問では、ギャンブルをやめようとしたができなかった、家族や他人との関係に問題が生じたかなどを問います)
ギャンブル依存症を治す方法
ギャンブル依存症は、アルコールや薬物依存とは異なり、薬物による治療効果がまだ確立されていないのが現状です。アルコール依存症では“渇望(強烈な欲求)”を抑える薬が使用されることもありますが、ギャンブル依存に対しては薬だけで解決することはできません。
ギャンブル依存症に薬が効きにくい理由
たとえ薬で一時的に欲求を抑えられたとしても、以下のような行動・性格面の問題には対処できません。
- ギャンブルのために嘘やごまかしを繰り返す
- 家庭の責任や仕事を放棄し、自己中心的な考えに陥る
- 借金を親族に肩代わりさせるなど、家族に負担をかける
- ギャンブルを最優先にし、人間関係を破綻させてしまう
こうした問題に向き合うためには、心理療法や精神療法が不可欠です。
ギャンブル依存症に有効な心理療法・治療法
以下は、実際に治療現場で使われている代表的な治療法です。
認知行動療法(CBT)
- ギャンブルへの衝動をどうコントロールするか
- 「やめたいのにやめられない」パターンを客観的に見直す
- 再発防止のスキルを身につける
集団療法(グループセラピー)
- 同じ悩みを抱える人たちとの対話を通じて、孤独感の解消や自己理解の深化を促す
- 生き方や価値観の見直しにもつながります
内観療法・動機づけ面接
- 自分自身の内面や過去の行動と向き合い、回復への意欲を高める
- 「治したい気持ち」を育てることを目的としたアプローチ
合併症(うつ病・発達障害)への対応も重要
ギャンブル依存症の方の中には、うつ病やADHDなど他の精神疾患を併発しているケースも多く見られます。その場合は、精神科的評価を行ったうえで、それぞれの症状に応じた治療・サポートを並行して提供する必要があります。
ギャンブル依存症の方に家族ができること
ご家族の存在は、ギャンブル依存症からの回復に大きな影響を及ぼします。ご家族がご本人を支えてくれるおかげで、安心して治療を続けることができるのです。
ギャンブル依存症は慢性かつ再発リスクが高い依存症ですが、適切な治療と支援によって回復の可能性は十分あります。家族が理解を深め、治療を継続できる環境を整えることが大切です。「完治」ではなく、長期的な回復を目指すイメージを持つとよいでしょう。ご家族を大切に思っていないからギャンブルを続けるのではないのです。ご家族がこの疾患の特徴を理解することは、回復にとって重要な要素となります。ご家族ができる支援策としては「ギャンブル依存症は意志・性格の問題ではないことを理解する」「借金を代わりに返そうとしない」「お金を貸さない」「相談できる機関に相談する」「家族会に参加する」などが挙げられます。
ご本人が受診を渋っている場合には、最初はご家族だけで相談に行きましょう。